3月も終わりにさしかかった頃、群馬県太田市にて第9回太田市花火大会が開かれた。開催時間は18:30〜20:00、打ち上げ総数約11,000発(公称)、この時期にこれだけの規模の花火大会なら申し分ない。何かのイベントに付随するのかと思い調べてみたら案の定その通りだった。例年は8月の下旬に太田市の花火大会として開かれていたらしいが今年の3月に4市町(太田市、尾島町、新田町、藪塚本町)が合併して新たな太田市として生まれ変わるのを記念して3月26日に花火大会が開催される運びとなったようだ。
場所も合併を機に4市町の中心地−太田沖野・上田島工業団地内−に移された。今回が初めての場所ということになるからweb上の太田市花火大会にまつわる過去の観覧記を読んでもどんな場所なのか把握できない。Mapionで見る限り建物も無い平地のようでもあるが・・・。得てして地理的な中心地などと銘打つところは交通の便が悪い所が多い。今回もどの駅からも遠そうだ。主催者のHPには太田駅から花火会場まで臨時シャトルバスが走っているとある。ならばこれに乗るのが確実だろう。この臨時シャトルバスは30分おきに出ている。最終便は16:00なので当日はこれに間に合うべく太田駅に着いてみたのだが・・・。
太田駅を下りるとバスターミナルのところに臨時シャトルバスの停留所があるのはすぐ分かった。係員も常駐している。だがその係員を取り囲むように人だかりが出来てる。雰囲気も何か険悪だ。何事か近づいてみるとようやく状況が把握できた。行きの最終便である16時発のバスが既に予約で全座席埋まっていたのだ。そんなこととはつゆ知らずのこのことやってきた観客−当然私もその中の一人−はここで初めて真相を知ることになったわけである。ここまで来てバスがないと言われてもすぐに納得できるわけがない。観客の一部が係員に詰め寄る。「座れなくてもいいから乗せてくれ」。だが係員は無理だと言う。係員の持つボードをのぞき込むと16時発の便のところに「56人」と書かれてあった。おそらく座席数が決まっている観光バスなのだろう。定員に達すればそれ以上は乗車できない。文句を言っても埒があかないことは分かってきたので他の交通手段を考えるしかなかった。
太田駅から会場までは臨時シャトルバスで30分ほどかかるらしい。出費を考えるとこの距離をタクシーで行くのはさすがに考え物だ。他の手段としては会場に最も近い東武伊勢崎線木崎駅まで電車で行き、そこからは徒歩で会場まで行く方法ぐらいだろうか。この様子だと帰りの臨時シャトルバスも期待できないから帰りも木崎駅まで引き返す必要がありそうだ。花火開始まで十分時間もあることだし明るいうちに道順を覚えておく必要があると考え木崎駅から徒歩で行くルートを選択した。季節はずれの花火大会や新たな会場に変更したということで観客の動向を十分把握できなかったのかも知れないがそれならばサイトでバスの座席が少ないことを事前に通知しておくべきだ。またはある程度の乗客の増減に対応できるよう近郊型バスにすることはできなかったのだろうか。次回以降の改善を期待したい。
木崎駅で降り会場までの道をひたすら歩いていく。電車を降りて気づいたが予想以上に風が強い。天気予報ではこの日一日中北西の強い風が吹きっぱなしとのことだった。マイクが風に負けて吹かれなければいいが・・・。そのマイク、今回もWM-61A改で臨むが多少小細工をしてきた。長野えびす講煙火大会、伊東温泉とっておき冬花火大会では派手に歪みが生じてしまったのはそれぞれの観覧記で述べたとおりだ。それもただのレベルオーバーではなく花火の開発音がした後しばらくレベルが押さえられるという特異な現象だ。一方同じマイクで録音に臨んだ富士山麓 須走の大花火や秩父夜祭ではこの現象はまったく発生していない。そこでそれぞれの録音での相違点や共通点を探ってみたところ実に興味深い事実に突き当たった。派手な歪みが生じたときの録音に共通する特徴はマイクに小型のウィンドジャマーを装着していた点だ。一方特に歪みが発生しなかったときはマイクにウィンドジャマーを装着していなかったことがわかった。これは飽くまでも仮説に過ぎないが、小型のウィンドジャマーを無理矢理付けたことで花火の開発時の振動がウィンドジャマーを通してマイクのヘッドに直接伝わったのではないだろうか。音にとどまらず強力な機械的振動もマイクのヘッドに伝わったためしばらく不応期に陥ったのではないか。だとしたら解決策はある。マイクのヘッドにウィンドジャマーが直接触れないように装着できればいい。というわけで今回はマイクカプセルをステンレスパイプに固定し、その側面を覆うように金属のバネを設置した。これに今までより大きめのウィンドジャマー(スポンジ)を取り付けた。バネがカプセルを覆うようにあるのでウィンドジャマーをかぶせてもスポンジの内側はマイクカプセルには直接触れない。これでウィンドジャマーを介した振動がマイクカプセルに直接届くのを防ぐことが出来そうだ。またバネも巻き数が少ないタイプを選んだので側面から来る音も従来通り損なうことなく拾うことが出来き無指向性マイクの特性を変えることも無い。
木崎駅から30分ほど歩くとようやく道に花火大会関係者と思われる係員などが目に付くようになった。近くにある花火大会専用の駐車場もかなり広い。あたりは建物もまばらなため視界が遠くまで開けている。遠くに赤城山など山が連なっているのが見えるが花火大会会場一帯は完全に平地といっていい場所にある。そしてその会場もだだっ広い。夏の花火大会でもこれだけ広く整地された場所を確保している所は珍しい方だろう。これだけいい環境を用意できてるだけに臨時シャトルバスの一件は残念だった。
さて、早速観覧場所を決めてしまいたい。ステージ正面の会場中央は来賓席や協賛席のための区画で仕切られている。というわけで観覧場所はその後ろか、あるいは左右でということになる。ステージの強烈なライトはおそらく終始消されることが無いと思われるから花火の撮影にステージは入れたくない。となると右か左かのどちらかしか残っていないが、今日の強烈な北西の風向き(正面に対して左前方から吹く風)を考慮すると左側の方がまだ降灰や煙害はマシかも知れない。というわけで左側に陣取ることにした。
3月は下旬だというのに気温はかなり低い。山から吹く北西の風が体温を奪っていくと共に北から冷たい寒気を招き入れているからだろうか。軽装で来たらひどい目に遭っていたところだ。そんなおり大会本部から無情なアナウンスが流れてきた。なんでも現時点での風は花火を打ち上げるには強すぎるらしい。打ち上げ開始時刻になっても風が弱まらない場合は順延すると告げてきた。せっかく群馬まで来たのに順延は悲しい。開催されるかどうかは分からないが明るいうちに準備はすませておかないとどうしようもないのでマイクの設置だけはすませることにした。
毎度のことだが花火大会にマイクというのは奇異の目でみられるようだ。今回もマイクを設置し終えた頃にとある観客の方が興味深そうに寄ってきた。地元に住んでいるその人は仕事でビデオ撮影をよくするそうで私も花火大会のビデオ撮影をしにきたと思ったらしい。録音(と補助のデジカメ撮影)だけと伝えるとちょっと驚いたようだ。だがその人もビデオ撮影をこなしてきただけあって音の重要性に関しては意気投合した。やはり豊かな臨場感はいい音無くして語れない。
ちょうどステージでは太鼓の演舞などが披露されていたのでその話題になると興味深い話をしてくれた。毎年8月14,15日になると太田市では道路を封鎖して屋台を引き回すねぶた祭に酷似した祭が開かれるという。ねぶたの本場は青森だがかつて津軽藩の飛び地が大館を中心とした地域にあったのが縁で現在の祭の形が定着したらしい。言われてみれば今回の会場にもねぶたを感じさせるオブジェが展示されていた。