一方尺玉だがさすがに保安距離の関係から羊山公園から打ち上げるわけにはいかない。こちらは西武秩父駅から羊山公園を望んで右側から打ち上げられているようだ。詳しい場所は分からないが音が伝わってくるまでの時間から判断するとそれなりに離れた場所から打ち上げているようだ。
さてどこから観覧すべきか。まず一つめは祭のメインが屋台であることをふまえると屋台を見ながら花火を見物できれば最高である。屋台が集結する場所はお旅所の広場。早速足を運んでみるともうすでに人・人・人であふれかえっていた。広場自体は広いが屋台が集結する関係大部分が立ち入り禁止区域となる。観客はわずかに残った周囲に陣取るしかない。もちろんそういった観覧できる場所はほとんど陣取られ、もっとも三脚なんて立てられないほど人々が密集していたわけだが。
屋台がダメなら残るは花火しかない。出来る限り肉薄して保安距離ギリギリで臨むことにした。というわけで保安距離の境界線上あたりの細い路地を散策しているとちょうどよさそうな駐車場を発見した。羊山公園は直に見ることができる。時折打ち上げられる尺玉(花火大会開始前でも時々試し打ちされている)も民家の影が多少被るが何とか見えそうな場所である。ちなみに花火大会開始前にも定期的に玉が試し打ちされるのだがこれがまた綺麗な玉を上げてくる。おもわず「もったいない」と口にしてしまいそうな玉だ。
花火大会開始前も定期的に試し打ちされている。これがまた本番に取っておいた方がいいと思えるような玉も散見された。
打ち上げ開始は午後8時の予定。しかし花火は一向に打ち上がる気配がない。おそらく屋台の引き回しが予定より遅れているのだろう。帰りの電車の時刻は決まっているので開始が遅れれば遅れるほど見ることのできる時間も減ってしまう。「早く始まってくれ・・・」じっとしていると寒さも堪える。思えば長野えびす講のときに比べれば気温もずいぶん低くなったものだ。かろうじて風が弱いのが救いだがそれは同時に花火の煙のはけの悪さへとつながる。いかんともしがたいところだ。
この間に録音と撮影の準備をすませておく。録音に関しては今回はバイノーラル録音-マイクを両耳の部分に設置-方式で臨むことにした。再生の際は是非ヘッドフォンで聴かれることをお勧めする。花火だけでなくその場の空気感も実感できるのではないだろうか。
開始予定時刻から遅れること15分、ようやく競技スターマイン大会が火ぶたを切った。スターマインは数にこだわるあまり打ち上げが単調になる傾向があると聞く(その方が観客受けがいいと思われているらしい)。一方競技スターマイン大会という形式を取る秩父夜祭にあっては各煙火店とも緩急を付けた打ち上げ方で魅了してくる。今年の秩父夜祭競技スターマイン大会に参加する煙火店は5社。各煙火店は2~3分という持ち時間の中で観客を魅了しようとメリハリの効いた打ち上げを心がける。中だるみとは一切無縁だ。
競技スターマイン大会
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(有)豊田煙火店
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(有)神田花火
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(株)金子花火
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(有)豊田煙火店
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根岸火工(有)
第3号 秩父に舞い咲く天空遊芸 (株)金子花火 (2min46s)
第5号 秩父夜祭彩色 花の賑わい 根岸火工(有) (2min45s)
とある花火大会がメディアで宣伝されるとき最も重視されるのが打ち上げられる玉の総数だ。玉数が多いほど規模の大きい花火大会であると推測されるからだ。しかし必ずしも玉の総数と花火大会の善し悪しが比例するわけではない。同じような玉を延々と打ち上げられたらいくら玉数が多くても飽きてしまう。一般的に花火大会をメリハリの効いた、観客を飽きさせないものにする条件の一つに「起承転結」の有無が上げられる。一部の人が花火大会の善し悪しの判断材料に参加している煙火店の数を参考にしているのはそういう背景がある。複数の煙火店が競演という形で参加している秩父夜祭は「起承転結」が約束されているわけである。その点では間違いなくお勧めできる花火大会だと思う。
そうこうしているうちに花火大会は尺玉コンクールへと移っていった。場所は不明だが尺玉とあってそれなりに距離は離れているようだ。打ち方は対打、つまり2カ所からほぼ同時に打ち上げる方式をとっている。尺玉の小気味よい開発音があたりに響き渡る。多重芯や千輪が主体のようだ。ここからだと建物に一部を覆われてしまうのもあった。尺玉に関してはもう少しベストポジションを探す必要があるかもしれない。
第2号 (株)金子花火より (1min4s)
尺玉コンクールの合間に《幻想的な世界を織り成す、ワイドスターマイン》という余興花火が打ち上げられた。場所は羊山公園に戻りそのワイドな地形を生かして一斉打ちで観客を魅了する。キラキラ星から始まり赤・青・黄・緑・ピンクの5色同時打ち、そして締めは上空を覆わんばかりの錦冠菊。ワイドな地形、そして高台の利点を生かし縦方向の空間的な広がりを錯覚させる見事な演出だった。
残念ながら時間が来てしまった。花火大会はまだ第3部「夜祭を彩る虹のスターマイン大会」が残されていたが終電に乗るためにはこの辺で家路につく必要がある。後ろ髪を引かれながら電車に乗るとちょうど最後のスターマインが打ち上げられている頃だった。電車の中で今日の花火大会をゆっくると振り返る。そういえば観覧しているとき隣で見物していたご夫婦の方とお話しする機会があった。夫婦そろって花火を見るのは二十数年ぶりだという。いざ始まってみると競技スターマイン大会というメリハリの効いた花火を堪能することができ心から感動されたそうである。初めて、あるいは長いブランクを経て観覧した花火が心に残るような素晴らしいものであるならばどんなに幸せなことだろうか。そしてこの秩父夜祭で花火に感動した人はこのご夫婦だけではないはずだ。見に来ることが出来て本当に良かったと思える、秩父夜祭はそういう花火大会だ。