これ以上の情報をネットから入手するのは困難と判断、代わりに小山町の観光センターに電話で聞いてみることにした。すると噂通り須走で前年に引き続き花火大会を開くと言うではないか。何でも前年に「NEW!!わかふじ国体」の前夜祭で花火を打ち上げたのがきっかけで今年も同じ時期に花火大会を開催する運びになったらしい。花火大会の名前も決まっていて「富士山麓須走の大花火」。去年の花火大会をカウントしてもまだ2回目という非常の若い花火大会だ。それにしてもこの時期にこれだけの規模の花火大会が開催されるのは珍しい。国内でも屈指の煙火業者が存在する静岡県だからこそなせる技なのかもしれない。
そして花火大会当日。出発前は日も差していたが場所が富士山麓なだけに念のため天気予報を見てみる。今年は特に夏以降天気予報の精度は著しく悪い。録音中に何度雨に降られたことか。コンデンサマイクは湿気に弱い。だから雨に降られたときの録音は洒落にならないくらい過酷だ。振り返れば星空の下で録音できたのは過去2回もあっただろうか。初めから大雨になると予報があれば録音はあきらめるのだが雨に降られた時の予報は決まって曇りか晴れだった。そして今日の小山町の天気予報は・・・終日快晴。なんてこった、縁起でもない。出発の準備も終え家を出る頃になると案の定空は一面厚い雲に覆われ始めてきた。これから行くところは富士山麓だ。やれやれ、先が思いやられる。
さて会場へのアクセスだがJR御殿場駅から花火会場近くまで富士急行のバスが走っている。最寄り駅は「須走浅間神社前」だろう。河口湖行きか自衛隊富士学校行きのバスが同停留所に止まる。所要時間は25分とのことだが行きは渋滞に巻き込まれ40分近くかかってしまった。花火は午後7時開始で午後8時くらいまでかかる。その時間帯だと自衛隊富士学校始発御殿場駅行きの終バスが8:50頃須走浅間神社前に到着する。これを逃すとバスは無いので要注意だ。次に車で来場する人に関して。「須走浅間神社前」バス停の近くに総合グラウンドがある。花火大会当日はそこが臨時の駐車場になっていた。その後は国道138号線を上っていき700mほどいくと左手に花火大会会場入り口がある。
会場に到着したのは午後4時半頃だった。普通の花火大会ならばいい場所はおおかた取り尽くされている時間帯ではある。しかしここ須走では場所取りをしている人が全く見当たらない。ざっと見て目に飛び込んでくるのは大会を運営されている委員の人か大型の三脚を展開している撮影目的の人ぐらいだ。
会場入り口 | 午後4時半なのに会場は驚くほど静かだ |
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人が少ないせいだろうか、やたら会場が広く感じられる。係の人に聞いてみたところこの場所は今回の花火大会のため急遽造成したらしい。言われてみれば会場はずれの方には木の切り株があったり土がむき出しのところがある。ある程度観客の分布が決まらないと録音ポイントを決めることはできない。場所取りをするにはまだ早すぎるので会場内部を探索してみた。会場奥の方にはテントが施設されていて甘酒やなめこ汁などが販売されていた。会場は富士山麓でそれなりの標高もある。特にこの日は日が照っていなかったからよけいに寒く感じられた。こういう暖かいものが手にはいるのはありがたい。
次に会場の周囲を探索してみた。観覧場所を挟んで花火打ち上げ場と反対側に大会運営本部が設置されている。その周囲にはスピーカーが4基ほど置かれて音楽が流れていた。なるほど、音楽付花火を打ち上げるときはこのスピーカーを使うようだ。遠すぎると音がよく収録できない。どのくらい近い方がいいのだろうか。ちょっとずつ接近してみる。すると耳障りな音が聞こえてきた。音のする方を見てみると・・・発電機だ。運営本部のすぐ後ろで発電機が稼働している。こりゃ録音の大敵だ。それでは前の方はどうかというと・・・、巨大な投光器がずらりと並んでいる。光だけなら録音には差し障りは無いがこれまた1基ずつ完全に独立した自家発電タイプなのだ。周囲に相当耳障りな音をまき散らしている。ずっと前、盛り土のすぐ手前まで行った方がいいか。いや、そこだと音楽も聞こえにくいし林に遮られて花火も観覧できないだろう。
大会運営本部から打ち上げ場の方向を見た。打ち上げ場は盛り土の向こう側らしい。問題は写真に写る2本の投光器。自家発電タイプのためやかましいし花火の写真撮影のときには大きな障害になることが予想される。 |
さて時刻も午後5時半を回りあたりもすっかり暗くなってきた。打ち上げ開始まで1時間半となったが会場は観客で埋まる気配が一向にない。前もって宣伝されていないとこんなものなんだろうか。今や花火大会の風物詩ともいえる殺伐とした場所取りや昼間から泥酔したグループがいないのでうれしいが、どこかもったいない気もする。
そんなおりぽつりと冷たいものが顔に当たった。雨だ。予報は終日快晴だったはずだが・・・。こういうときはどうしようもないので出していた機材をバックに戻してじっと待つほか無い。山の天候は変わりやすい。いい方に転んでくれることをひたすら願うだけだ。
午後6時。幸いにも雨は本降りになる前にやんでくれた。早速機材を展開する。前回に引き続き今回もWM-61A改でステレオ録音に臨む。ただし今回は、前回のようにマイクを自分の頭に固定するバイノーラル録音ではなく、三脚に40cm程度の間隔を置いて固定するステレオ録音(AB方式)を採用した。バイノーラル録音もいいのだがいかんせん自分の頭にマイクを装着するとケーブル類が邪魔で取り回しが効かない。今回はスペースに十分余裕もあることからマイクは三脚に固定することにした。一般的なスピーカーで聞く限りこの方式で十分だろう。
マイクやデジカメの設置をしているとそろそろいい時間になってきた。このころになるとようやく客足も多くなってきてあれほどあいていた観覧場所も奥の販売所の方まで人で一杯になっていた。一体どこからこんなに多くの人が来たんだろう。客足はなおも続いている。そのとき会場にアナウンスがはいった。なんでも国道138号線の渋滞によりまだ会場入りできない人がたくさんいるので開始を15分ほど遅らせるらしい。なるほど、車で来ていたわけだ。おそらく近隣の市町村から見に来ている人が大多数なのだろう。
ちなみに開始が遅れた分打ち上げは間髪入れずに行われ、開始後おそらく30〜40分で打ち終わるだろうとのことだ。寒さも押してきたのでこの配慮はうれしい。またアナウンスでいくつかのことが新たに分かった。やはりこの花火大会は前年の「New!!わかふじ国体」での前夜祭で打ち上げた花火大会が前身らしい。その後の反響の大きさから今年も同じ時期に花火大会を開催する運びになったのだ。また観覧場所となっているところは台風23号が去った後に2〜3日で急遽拡張整備を施したらしい。一部土地がでこぼこしていたりブルドーザーが通った跡がついていたのはそういうことらしい。しかしこの入りを見る限り拡張工事をして正解だったようだ。ちなみに今回花火大会を主催しているは「須走彰コ山林会」というところらしい。残念ながら打ち上げを担当する煙火店がどこかは分からなかった。
午後7時14分、会場の照明が消灯される。いよいよ打ち上げ開始だ。カウントダウンが始まり・・・
カウントダウン、 そしていよいよ花火打ち上げ開始 (stereo, 1min14s) WM-61A改 + PMD670 |
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近い・・・、打ち上げ地点は思ったより手前かもしれない。花火の開花も正面ではなく明らかに上だ。これだけ近いと持参したデジカメじゃ全ての花をフレームに収めきれそうにない。それだけ間近だ。そして音。山々にこだまして心地よい残響音を伴っている。開花の音だけじゃない。打ち上げ音、抜けるようなその音は片貝で聞こえた打ち上げ音に近いものがある。そういえば片貝も打ち上げ場所は山の中腹だったっけ。
響き渡る残響音が素晴らしい (stereo, 40s) WM-61A改 + PMD670 |
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抜けるような打ち上げ音は 片貝に通じるものがある (stereo, 1m54s) WM-61A改 + PMD670 |
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第1ステージは日本の象徴たる富士山の麓須走の四季折々を表現した花火が打ち上げられた。 続く第2ステージは色彩の花火。丸にとらわれない、いわゆる型物花火の登場だ。 ただ風がほとんど吹いていなかったため、そして間髪入れずに打ち続けたためだろうか、残念ながらそのほとんどは煙に阻まれて鑑賞することはできなかった。それでもたまに煙からはみ出る大輪の花が圧倒的な迫力を物語っていた。
風吹かれの心配は無いのでマイクにスポンジを付ける必要性は感じられない。このたぐいのウィンドジャマーは少なからず音質に影響する。花火がよく見えなかったのは残念だが録音には最適な環境と言えよう。
早くも第3ステージ、メロディーフェアだ。童謡メロディや様々なキャラクターが登場した。
第3ステージメロディフェア 童謡メロディ (stereo, 3m8s) WM-61A改 + PMD670 |
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カエル | カタツムリ | 「どんな色が好き?」 「赤!」 |
メロディフェアはまだまだ続く。今度は日本の歌謡曲がテーマだ。
第3ステージメロディフェア 日本の歌謡曲 (stereo, 2m42s) WM-61A改 + PMD670 |
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ワッショイ ワッショイ! ワッショイ ワッショイ! | |
リンゴの花びらが | 月夜に |
川の流れのように |
打ち上げはなおも間髪入れずに続いていく。第4ステージ、この花火大会を主催した「須走彰徳山林会」の文字が仕掛け花火で浮かび上がる。
第4ステージ 仕掛け花火 (stereo, 30s) WM-61A改 + PMD670 |
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速火線の高らかな燃焼音とともに「須走彰徳山林会」の文字が浮かび上がる |
花火大会も佳境に入り最後の第5ステージ、特大尺玉50連発だ。豪快な音ともに次々と頭上で開発する尺玉は、観客の歓声を浴びながらカメラのファインダーをいとも簡単にフレームアウトし地上に届かんばかりその大輪を大きく咲かせ散っていった。写真を見て頂ければ分かるように同じ玉の繰り返しは一つも無い。どれもが一つ一つ個性を持っている。本大会が決して数ではなく質で勝負しているのがよく分かる。この日打ち上げられた尺玉は菊や牡丹に限ったわけではない。夜空にいくつもの花を開かせる千輪(写真左下)はど迫力こそ無いが奥ゆかしい美しさを兼ね備えている。いかにも日本的な花火だ。そして最後を飾ったのはやはり錦冠菊(写真中央下、右下)。雄大な尾で空一面を埋め尽くす冠菊は花火大会のトリとしてよく使われる。今回の錦(「金色」の意)冠菊はただ冠が垂れ下がるだけではなく開発と同時に淡い緑色の千輪も開花した。その千輪が消えた後も冠は消えることなく壮大な尾を引き地上へと垂れ下がっていく。冠が消えゆくと同時に場内アナウンスが花火大会終了を知らせた。
第5ステージ 尺玉50連発 (stereo, 2min14s) WM-61A改 + PMD670 |
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ラスト尺玉50連発を飾った尺玉 |