全国花火競技大会「大曲の花火」。毎年8月の最終土曜日に秋田は大曲で開催される言わずと知れた日本最高峰の競技花火大会である。が、2013年を最後に久しく観覧していない。というのも翌年から無料席が完全に排除されてしまったからだ。それまで無料席だった場所には桟敷席が拡充された。無料席の解放に備え前日のうちから大曲入りしてワクワクしながら野宿する姿はもはや完全に過去のものである。年々増大する諸経費を捻出するために完全有料化は致し方無いという考えはよく理解できる。ただ一方で完全有料化は若年層をはじめとするご新規さんの観覧のハードルを確実に上げる。観客が活力を失えばスポンサーが活力を失い、スポンサーが活力を失えば花火大会が活力を失う。観客あっての花火大会である。
話を元に戻そう。大曲の花火は河川敷に設けたA席(桟敷席)とその後ろの土手のり面に設けたC席(板席)がメインの観覧場所だ。いずれの席も団体用であり個人相手に販売はしていない(金さえ出せば個人でも買えるが数万円を費やしてだだっ広いスペースのなか一人で観覧することになる)。個人で観覧したかったら選択肢は有料自由観覧エリア(1,000円)とパイプ椅子席(3,000円)の二つぐらい。だがどちらも会場の端っこだ。有料自由観覧エリアに至ってはかつて無料席の解放を待つために野宿していた場所だ。こんな場所に鐚一文払えるか
チケットの目処はついた。宿はどうにでもなる(後述)。あとは新幹線のチケットだけ。だがこれがまた取れない
天気予報は芳しくない。多くの天気予報サイトが花火大会当日の天気を曇り時々雨と報じている。既にチケットは買ってしまった。さてどうしたものか、と悩んでいたら天気は前日になってまさかの曇りのち晴れ予報に好転。あまりのうれしさに東北新幹線はやての指定席券を東京駅11時28分発から10時28分発に繰り上げてしまった(こまちと違ってはやては前日でも空き席がある)。
はやてといえど当日になれば満席になるのね。満席のはやてに揺られること2時間ちょっと。最初の乗換駅北上駅に到着する。乗り換えには30分以上余裕があるのでゆっくりJR北上線のホームに向かったが既に長蛇の列が。自分と似たようなことを考える花火観覧客がこんなにいるとはorz。JR北上線は2両編成らしいので2両目最後尾の乗車位置で並んでいるとうれしいアナウンスが。本日に限り3両目を連結して運行するとのこと。その3両目はホームからはみ出してしまうために扉は常時閉鎖状態。つまり今並んでいる2両目最後尾の場所は3両目への最短アクセスの場所となる。果たして列の後方に並んでいた私も余裕で臨時増結車の3両目に座ることが出来た。
「ホントに冷房入れてるんですかね?」そんな愚痴もこぼしたくなるような蒸し暑い車内で揺られること1時間あまり。横手駅到着。立ち客もいるくらい混雑していたけど途中駅でほとんど降りる人がいなかったからほぼ全員花火観覧客なのだろう。奥羽本線に乗り換えればめざす大曲は目と鼻の先の距離だ。ふと車窓から外を眺めるとさっきまでまぶしいぐらいに照っていた太陽が雲に覆われていた。進行方向の大曲に目を向けると周囲に比べて明らかに暗い。それからほどなくして雨が車体に叩き付けられる音を耳にすることとなる。「嘘だろorz・・・」。大曲駅のホームに降りたって目にしたのはスコールのような大雨だった。予報とは違う状況に当惑しつつ駅のコンコースでひたすら雨がやむのを待った。
それから30分もしないうちに西日が差し込む。大雨を降らせていた雨雲は北の空に去って行った。今更戻ることなんて出来ない。晴れ予報を信じて会場に向う。
そうそう、その前にパンフレットとお土産を調達しなければ。駅前広場で300円で売っている公式パンフレット以外にも何種類か非公式パンフレットが売っていた(駅構内)。非公式パンフレットの方は花火師へのインタビューとかも載っていたので興味のある人は両方買うのもいいかもしれない。駅前に毎回利用しているお土産ショップがある。買いたいものはいろいろあるけれど行きに買うと荷物になるし終電まで営業してるというし帰りに買うか。
会場の雄物川河川敷に到着。今年から有料席の管理方法が変わった。土手に入る前に入場チェックを受けるようになったのだ。カードを首にぶら下げて提示しなければ土手への入場は認められない。それでは土手を上って会場に入る。かつては無料席が隣接していたので土手のり面に設けられたC席は囲いできっちり隔てられていたけど今は土手の内側全てが有料席。不要になった囲いは撤去され開放的になっていた。直前に降った雨のせいだろうか。C席と道路の間は水たまりができていたり芝生がまだ湿ったままだったりと観覧環境はあまりよろしくない。多少水に濡れてもいい靴で来たのは正解だった。
今回自分に割り当てられたC席はブロック2桟敷席の近くのはず。首にぶら下げたカードに書かれている座席番号とベンチに貼られた座席番号を照会していると「こっちこっち」と呼ぶ声が。声の主は若い女性のグループだった。ああ、なるほど。今回私にチケットを譲ってくれた方々のようだ。首にぶら下げたカードに書かれた番号を見て私がその相手と分かったようだ。グループで取得したけど場所が余ったから一人分を融通してくれたようだ。しかしこの場所、C席の中でも最後尾、すなわち最も高い場所だ。会場を一望でき、後ろに気兼ねなく三脚を立てることが出来る。とんでもない良席を譲って頂き恐縮です
そうこうしているうちに昼花火の時間となった。今回持参したレンズはEF-M11-22のみ。ここからでは望遠端の22mmで撮影しても昼花火はちょっと遠かった。昼花火の競技が終わると最後に余興花火のスターマインが打ち上げられた。これは目の前からも打ち上げられたが風向きが向かい風のため煙や花火の燃えかすがこっちに飛んでくる。今日は降灰も覚悟しないとダメかもしれない。
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三遠煙火(株)
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(有)菊屋小幡煙火店
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(株)山崎煙火製造所
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(株)磯谷煙火店
スピーカーは以前と同様つり下げ式。音量も十分あるので聞き取れないということは無い。ただ複数台が等間隔で並べられているため風によってはハウリングが発生する。そうこうしているうちにいよいよ夜花火の時間となった。ナイアガラの滝付きのオープニングスターマインを見るのは今回が初めて。無料席から観覧していた頃は目の前の桟敷席に邪魔されて見えなかったのだ。そのナイアガラの滝が次々と点火されていくがどうも様子が・・・。半分くらい点火されたところで終わってしまったのだ。直前に降った雨で導火線が湿気ちゃったのかな?雨が原因なら仕方が無い(;^ω^)。ちなみに風向きは昼花火の頃から大して変わってないが打ち上げ場所がもっと中央寄り(ブロック4~5)だったのでここ(ブロック2)にはほとんど煙は来なかった。会場中央から雄物川下流側で観覧している人は結構煙に悩まされただろう。こればかりは運としかいいようがない。
オープニングも終わりいよいよ競技花火の開始だ。今回は割物花火は写真で撮影し、創造花火・大会提供花火等は動画で撮影する。一応4kまで撮影できるカメラではあるが機能上4k動画は画角がクロップされてしまう。今回はそこそこ打ち上げ地点まで距離があるのでクロップされても収まるかな、と標準審査玉打ち上げのときに4kで撮影してみたが見事にフレームオーバー。素直に動画はFullHD(60p)で撮影することにした。
10号玉・芯入割物の部は実にハイレベルな戦いだった。四重芯花火、五重芯花火はどれも綺麗に決まっていたのでどこが優勝してもおかしくない。審査する側は大変だろう。10号玉・自由玉の部では芯入割物の部からは一転して枠にとらわれない自由な発想にもとづいて作られた玉が上がる。圧巻だったのは野村花火工業(株)の10号自由玉「新緑の躍動」。緑系の色のみで四重芯花火を成立させてしまったのはお見事としか言いようが無い。文句無しの優勝だろう(芯入割物の部に出品しても勝てたに違い無い)。見ていて思わずため息が出てしまった。他感銘を受けた自由玉は(株)マルゴーの10号自由玉「雪どけの華」と(株)丸玉屋小勝煙火店の10号自由玉「トリコロールの花」。中には自由玉の部で六重芯を打ち上げた煙火店もあったがさすがにこれはまだ話題レベルの出来だった。
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(株)磯谷煙火店
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(株)山崎煙火店
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(有)若松煙火製造所
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信州煙火工業(株)
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(有)菊屋小幡煙火店
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新潟煙火工業(株)
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野村花火工業(株)
【優勝】
【日本煙火協会会長賞】 -
(株)マルゴー
【準優勝】 -
(株)紅屋青木煙火店
【入賞】 -
(株)小松煙火工業
【優秀賞】 -
(有)伊那火工 堀内煙火店
【優秀賞】 -
響屋大曲煙火(株)
【入賞】 -
(有)篠原煙火店
【入賞】
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(有)太陽堂 田村煙火店
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信州煙火工業(株)
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筑北火工 堀米煙火店
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(有)片貝煙火工業
【入賞】 -
(株)丸玉屋小勝煙火店
【優秀賞】 -
新潟煙火工業(株)
【観光庁長官賞】 -
野村花火工業(株)
【優勝】 -
(株)齊木煙火本店
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(有)菅野煙火店
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(株)マルゴー
【入賞】 -
(株)小松煙火工業
【優秀賞】 -
三遠煙火(株)
【入賞】 -
(株)ホソヤエンタープライズ
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(株)和火屋
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響屋大曲煙火(株)
【準優勝】
一方創造花火は割物花火とは別の意味でどこが優勝してもおかしくない。すなわちこれぞというところが見当たらなかった。そうなると評価の基準はおのずと持ち玉に移っていく。磯谷煙火店や齊木煙火本店はハロウィンをテーマにした型物花火をあげて好評を博していた。マルゴーは”えぐい”時差式花火をこれでもかと上げていた。時差式花火に関しては現時点で間違いなくトップランナーだろう。イケブンは序盤に空中絵文字花火を打ち上げた。よく見れば「大曲」と読める。
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02.(株)磯谷煙火店
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09.(株)イケブン
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16.(株)齊木煙火本店
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18.(株)マルゴー
大曲では競技花火の合間にスポンサー花火が打ち上がる。大会提供花火と特別プログラム「光と闇のレクイエム」の2つだけは動画で撮影し、残りは音楽こそつくもののミュージックスターマインというより余興花火に近いので写真で十分と判断した。特別プログラム「光と闇のレクイエム」は前年に内閣総理大臣賞を受賞した業者(菊屋小幡花火店)に打ち上げを一任するプログラム。和火を中心としたモノトーン調のスターマインを打ち上げていた。
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(有)菊屋小幡花火店
そして午後9時、「大会提供 花火ミュージカル 平成の名曲で綴る未来への物語 令和祝祭」の打ち上げが始まった。今回の大会提供花火は地元秋田の劇団に監修を依頼した花火ミュージカルとのこと。朗読を交えながら平成を代表する曲に合わせて花火を打ち上げていくスタイルだ。「朗読はミュージカルとは呼ばない」。「令和祝祭と称しておいて内容が暗い」。否定的見解も数多く寄せられているとは聞くが大会提供花火が従来の路線からの脱却を真剣に模索していることはよく伝わってきた。朗読は演劇では一般的だけど花火と組み合わせるのは難しそうなのね。言葉を投げかけられると人間どうしてもその意味を考えてしまうわけだけど花火は考えることよりも感じることの方が重要だったりする。でも新たな可能性を模索することも必要なこと。どうか光明を見いだして欲しい。
第93回全国花火競技大会が幕を閉じようとしている。10号玉30発が空高く打ち上がり、惜別のスターマインが打ち終わればここ秋田も季節は秋へと移り変わっていく。土手のり面に設けられたC席からは桟敷席と打ち上げ場を一望できる。打ち留め後に桟敷席観客が花火師とのエール交換で振る色とりどりのサイリウムがあんなに美しいとは知らなかった。観客あっての花火大会である。
以下今回の収録に関して。今回は写真・動画はCanon EOS Kiss Mで、録音はWM-61A改とPMD-670にて収録した。いつも通りの収録のはずだったが帰宅してから録音を確認したところ右チャンネルに明らかな音量と音質の低下が見られた。おや?これ以前にも遭遇した現象だぞ。そのときは電源ケーブルの交換で対応できたものと思っていた。見当違いだったということか。というわけで今回掲載した動画は無事だった右チャンネルのみのモノラル音声ということにさせていただいた。