「悪天候と花火日よりは紙一重」
2019年第71回諏訪湖まつり湖上花火大会はこの言葉と共に永遠に語り継がれていく回になる。
諏訪湖まつり湖上花火大会。毎年8月15日に諏訪湖畔で開催される規模の大きい花火大会のことだ。湖畔は全て何らかの有料席で埋められるため近場で見ようと思ったらお金を払って有料席を確保しなければならない。団体ならマス席という選択肢もあるが個人で買おうと思ったら一人単位で購入できる石彫公園・湖畔公園の有料自由席がお薦めだ。以前は事前に現地で並んで買う前売り券かわずかに販売される当日券しか選択肢がなかった。いずれの方法も難しい県外在住者は明らかに転売目的と分かっていてもオークションで高いお金を払って券を買うしか無かった。近年その状況は一変する。ローソンチケットでも買うことができるようになったのだ。有料自由席券(石彫公園) 大人 \4,300(税込)。早速確保した。
あとは当日の天気さえ・・・、当日の天気さえ・・・、これが鬼門だったorz。台風10号。西日本を北に縦断する。諏訪は直撃こそ避けられたものの台風10号から送られてくる猛烈な風と雨雲の直撃に絶えず晒され続ける。普通に考えれば延期も視野に入れるところだが公式サイトには「決行」の文字が。そうですか…。いくつかある天気予報サイトはおおむね打ち上げ時間帯に小雨、打ち上げ終了後に本降りの判断を下している。当日12時を過ぎても行くか行かないかでかなり迷ったが4,300円は既に支払い済み。結局「雨に打たれながらでも観覧してやる」ぐらいの気概で行くことにした。
高尾駅の時点で既に小雨模様だったが山梨市駅を過ぎたあたりから日の光すら見え始めた。かと思えば目的地に近づくにつれ再び小雨に見舞われ17時に上諏訪駅に到着したときには傘が必要なくらい降っていた。ころころと変わりやすい典型的な台風の天気だ。仕方ないので上諏訪駅のお土産屋でお土産を先に調達しておく。このときついでにレインコートも着用しておいた。降雨の有無にかかわらず今日は一日中レインコートを着用し続ける。
17時20分。お土産屋から出るとさっきまで降っていた雨は止んでいた。空には一部青空すら見える。ウェザーニューズは17時台に1mm、その後19時までは0mmと予想してたっけ。その通りなのかもしれない。
とりあえず大会本部で有料自由席購入者には無料で配布しているパンフレットを受け取ってから石彫公園に向かう。有料自由席は14時の開門と同時に早いもの順に場所取りしていく。17時過ぎに行ったところでろくな場所は残ってないだろうと思いきややはりみんな台風10号にびびったのかポツンポツンと一人分くらいの空きスペースは点在している。打ち上げ場所の初島を目視出来る場所があったので確保。今日はここから観覧する。余談だがいくらスペースが空いているからと言って窪地は選ばないように。前が見えないだけでなく雨が降ればそこは池に早変わりする。
5年ぶりとなると夏の諏訪湖。所々変化も見受けられる。まずクレーンで高く吊られたホーンスピーカーが無くなった。スピーカーは有料席前の湖畔に設置されている。気持ち音質も向上したような気がする。
それと有料自由席の入退場管理はリストバンド式チケットで行われるようになった。ローソンで発券したチケットをゲート受付で渡すと代わりにリストバンド式チケットを渡される。手首に巻いて両面テープで貼り付けて固定する。以降入退場の際にはこのリストバンド式チケットを提示することになる。ゲートでの入退場管理をスムーズに行うこと、紛失対策、そして簡易的な個人認証、この3つの目的が込められているのではないだろうか。リストバンドの両面テープは一度貼ったら最後。二度と綺麗に剥がすことは出来ない仕様のため他人と入れ替わることは難しい。
そして諏訪市長が変わっていた。実家が養蜂業者だった前市長に代わって新たに女性が市長に就任していた。オープニングで前市長がトーチの火を導火線に点火すると「ブンブンブン♪蜂が飛ぶ♪」の唄と共に蜂のような花火が派手に打ち上がっていた名シーン(?)はもはや過去のものである。
上諏訪駅に到着したときに降っていた雨は完全に止み、上を見上げれば一部青空や星すら見える。それでいて台風から送られてくる南東の風は煙を湖の沖合に吹き飛ばしてくれる。例年煙か雨に悩まされる諏訪湖。それが今年は順風が吹いて雨も降らない。近年ここまで恵まれた観覧条件は記憶に無い。
19時。打ち上げ開始。オープニングスターマインに先立ち1分間の黙祷が捧げられた。8月15日に開催され、今年で71回目を数える諏訪湖まつり湖上花火大会は戦災からの復興、戦争犠牲者の鎮魂を目的としたものであることをこのとき思い起こされる。さらにこの後白菊一発が打ち上げられた。私の記憶にはないので最近加わった打ち上げなのだろう。花火大会における鎮魂という意味では白菊ほどふさわしい形は無い。今後も是非継続すべきだ。
幾度と観覧してきた諏訪の花火。石彫公園からは近すぎて換算35mmのレンズでは単発の花火ですらフレームに収めるのに苦労した。そこで今回は広角ズームレンズのCanon EF-M11-22mm F4-5.6 IS STMを持参する。広角側の11mでワイドスターマインの撮影に挑戦しよう。一方雨は必至ということで録音はきっぱり諦めることにした(本当はカメラの持参も悩んだ。そもそもCanon EOS Kiss Mは防水カメラじゃないし…)。
諏訪湖まつり湖上花火大会は第1部競技花火(割物花火とスターマイン)「夜空に轟く音と光の芸術」と第2部スポンサー花火「美を求めて限りなき挑戦」から構成される。競技花火に先立ちオープニングのスターマインが打ち上げられた。11mmの広角レンズで全景が問題無く収まることを確認した。大半の花火は問題無く撮影できるはずだ。競技花火のスターマインは今となっては珍しいBGMが無いタイプ。音楽頼みが出来ない分各煙火店の技量がより試される競技だろう。
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三遠煙火(株)
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(有)関島煙火製造所
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(株)齊木煙火本店
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(株)小口煙火
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(有)太陽堂田村煙火店
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(株)若松屋
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(有)一福煙火店
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(有)関島煙火製造所
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(有)関島煙火製造所
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(有)関島煙火製造所
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(有)太陽堂田村煙火店
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(株)小口煙火
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(株)紅屋青木煙火店
第1部の競技花火は終了し第2部スポンサー花火へ。中でも注目なのは24.ジャキジャキスターマイン「宇宙戦艦ヤマト」、25.尺玉スターマイン「Starlight Illusion」、26.水上大スターマイン「Kiss of Fire」。ジャキジャキスターマイン「宇宙戦艦ヤマト」は誰もが知る名作アニメ「宇宙戦艦ヤマト」の主題歌に併せて打ち上げるスターマイン。2005年に初観覧したときには既に打ち上がっていたので相当息の長いスターマインだ。ワンコーラス歌い上げたら空が真っ白になるまでひたすら打てるだけ打って終わるのが最大の特徴だったが今回久しぶりに観覧したら何とフルコーラス歌いきる仕様に変わっていた。新たに地上(水上?)に仕掛けた空砲も加わり五感を思いっきり揺さぶる方向性は健在だった。
尺玉スターマイン「Starlight Illusion」。ひたすら尺玉を打ち上げる諏訪湖名物プログラムの一つ。名前と打ち上げ順、スポンサーこそ違えど2005年には既に同等の打ち上げが存在していたからこれも息の長いプログラムだ。
水上大スターマイン「Kiss of Fire」は諏訪湖でしか見ることが出来ない貴重なプログラム。諏訪湖が遠浅であることを活かして湖面に杭を打ち込み、その上に花火の玉を設置する。玉そのものは水に浸かってないので開発すると見事な半円を描く。左右から点火され始め小さな玉、中央に近づくにつれ大きい玉へと変化していく。最後は初島から打ち上げられる打ち上げ花火と共に大団円というプログラムだ。例年ほぼ同時に中央に到達するが今年は左側がやや遅れて中央に到達した。
「Kiss of Fire」が終わることぽつりぽつりと雨が降ってきた。本来ならば雨に打たれながらの観覧でもおかしくなかった天気。ここまで本当によく持ってくれた。それどころか台風から適度な風だけが絶えず供給され続けたおかげで諏訪湖では信じがたい順風の中観覧することが出来た。風が吹いていてもたいてい向かい風という諏訪湖においての順風(というか神風)。これは信じられない幸運だ。ダメ元で観覧した第71回諏訪湖まつり湖上花火大会は図らずも神回として人々に記憶されていくことになる。
撤収作業を進めつつレインコートを脱ぐと肌に当たる風がひんやりと冷たいことに気付く。諏訪湖まつり湖上花火大会が終わるとここ諏訪には一足早く秋の気配が訪れつつあるようだ。傘をさすべきか悩むような小雨のなか上諏訪駅へと向かう。完