片貝まつり

浅原神社秋期例大祭奉納大煙火

観覧日時2011年9月10日(土)
19:30~22:20
天候晴れときどき雨
主催片貝町煙火協会
煙火店片貝煙火工業
下車駅JR信越本線
来迎寺駅 徒歩30分
観覧場所新潟県小千谷市
浅原神社
パンフレット

「花火と共に産まれ、花火と共に育ち、花火と共に天に昇る」
片貝ほどこの言葉が似合う土地が他にあるだろうか?

片貝では子が生まれると健康祈願の花火を奉納し、その子が結婚・出産すると夫婦円満と産まれてきた子のための花火を奉納し、厄年になると厄よけの花火を奉納し、還暦を迎えると感謝の花火を奉納し、天寿を全うすると天まで届く花火を奉納してもらう。花火の奉納先は地域の中心的存在である浅原神社であり、打ち上げ当日は浅原神社の脇に設けられた桟敷席に町民が集い花火を鑑賞する。片貝町民はまさに花火を中心とした生活を送っているのである。

花火の奉納は決して安くはなく、人生の節目節目に花火を上げるには相応の出資を強いられる。片貝町民が自分たちのお金で奉納した花火は当然自分たちのためのものであり、そんな花火を見に来た町外の人間は町民からしてみれば「よそ者」に他ならない。自分たちが汗水垂らして働いて得たお金で完結している片貝まつりに「よそ者」は不要であり、観覧の妨げになるような行為をしようものなら(ゴミのポイ捨て等)「よそ者」は「邪魔者」と化す。よそからたくさんの人を誘い、お金を落としてもらって経済を活性化しようとする一般的な花火大会と片貝まつりは本質的に一線を画す。

午前7時。浅原神社の最寄り駅である信越本線の来迎寺駅に到着する。ムーンライトえちごに乗って未明の長岡に降り立ち、始発で来迎寺にやってくるのはおそらく鉄道を使った中ではもっとも早くに現地入りできるパターンのはずである。なぜここまで早くに現地入りする必要があるのか。それは片貝まつりの桟敷席の当日切り売りを取得するためである。

来迎寺駅
始発で来迎寺駅にやってきた

片貝まつりは桟敷席至上主義である。花火を真正面から観覧でき、祭りに華を添える屋台の行進を間近で見ることができるのは桟敷席をおいて他にない。桟敷席の周りは森や畑(私有地)に囲まれていて観覧には適さない。桟敷席を取得できなかった場合、祭りの喧噪とは無縁のかなり離れた場所(学校や空き地)から寂しく観覧することになる。祭りの喧噪を味わえないのであれば大玉(後述)を除いてローカル花火大会との違いを見いだすことは難しい。そのことを知らず桟敷席以外の場所から花火を見た「よそ者」はときどき大きな玉があがる花火大会程度の認識しか持てず、さしたる感動もしないまま帰路に就くであろう。桟敷は片貝まつりの舞台なのである。

それではどうしたら桟敷席から花火を観覧することができるだろうか。まずは片貝まつりに花火を奉納することである。花火を奉納するのは主に地元の人だが地元以外の人も奉納することは出来る。ただし前述のとおり花火の奉納はそれなりの出費を強いられる。次に旅行会社のツアーに申し込む方法。桟敷席の一部は旅行会社に切り売りされる。その旅行会社が主催したツアーに参加すれば桟敷席から花火を見ることができるわけだ。もっともツアーなりの制約はあるだろうし、ツアーの参加者は自分も含めて基本的に「よそ者」である。つまり桟敷席とはいえ「よそ者」同士で花火を見ることになる。最後に当日切り売りされる桟敷席を取得する方法。桟敷席は綺麗に売れていくとは限らない。区画によっては人数のキャパはまだ十分あるような場所もある。そういった埋められなかった区画を当日に切り売りしている。その年その年で変動はあるが毎年だいたい80~120人分の桟敷席が当日に切り売りされているようである。一人当たり三千円。今回はこの当日切り売りの桟敷席がお目当てである。今回観覧に出かけた9月10日は約100人分の桟敷席が切り売りされるとのこと(前日の9日は120人分だったらしい)。事前の予約は一切受け付けない早い者勝ちがルール。なぜ夜行列車を乗り継いでまで早朝に現地入りしたかお分かりいただけたであろうか。

来迎寺駅から歩くこと30分。午後7時半に現地に到着するとすでに長蛇の列が…。50人は優にいるだろうか。当然今は席を外している人もいるだろうから実際はもっと並んでいるはずである。始発に乗ってこれなら今目の前に並んでいる人たちは車で現地入りしたか前日からキャンプしてたのかのどちらかだろう。当日切り売りの桟敷席の入手はそれなりにハードルが高い。

浅原神社
午後7時半、浅原神社境内に到着

ちなみに販売開始は午後1時半。このあと6時間ほど並び続ける。整理券を配布するとか販売時間を早めるとかしてもよさそうだが(午前10時には並んでいる人の数は100人を優に超えていた)それは主催者側が自由に決めること。おじゃまして花火を見させてもらう「よそ者」に四の五の言う権利は無い。救いは天候が曇りがちでなおかつ風があることか。これが炎天下だったら厳しかっただろう。そうそう、今回は天気予報が直前にころころ変わって振り回された。事前の週間予報では10日(土)は晴れだったが2,3日前に急速に悪化して雨予報に。雨なら無理して行くのはやめようかと思っていた前日にまさかの曇り時々晴れ予報に再び変化。急遽荷物をまとめて出かけることにした。予報ではモクモクした雲が見えたら雨に要注意とのこと。雨対策に抜かりがないよう気を配る。

桟敷席販売の案内板
「100枚、午後1時半販売開始」を伝える案内板

午後1時半。予定通り桟敷席の切り売りが始まる。割り当てられた桟敷席は赤席。はて、どこだろう?地図で示されたところに行ってみると桟敷の中でも一番右端の部分らしい。目の前にはお墓が並び、右に目を向ければそこは畑。桟敷中央にあるお立ち台(花火を奉納した人が立ち入ることが出来る場所)からはかなり遠い。当日切り売りの桟敷席は過去2回観覧しているがこれほどまで中心から離れた桟敷席が割り当てられたのは今回が初めて。観覧にブランクがあった間に変更があったのだろうか。とはいえ桟敷の当日切り売りというのはこういうものだから受け入れるしかない。桟敷席が買えただけでもラッキーなのだ。

桟敷席当日券(赤席)
初の赤席
赤席にて
赤席から打ち上げ方向を臨む
赤席の右隣
赤席の右はもう畑

午後2時。桟敷席でくつろいでいるとあたりにサイレンが鳴り響く。これから大玉が上げられるという合図だ。そう、片貝は「真昼の三尺玉」と呼ばれる三尺玉の昼花火を10日の昼に上げる。過去3回片貝まつりを観覧したが日程の都合上いずれの年も10日の昼は現地にいなかった。というわけで今年が初めての観覧となる。サイレンが鳴りやむやいなや桟敷席正面よりやや右側の森の中から振動を伴う打ち上げ音が発せられる。条件が良ければ上がっていく玉も見えるとのことだが今回は煙しか見えない。そのまま上空に達し開発、小割を振りまいて見事に打ち上げ成功である。昼花火は大曲でも見ることが出来るけど真昼の三尺玉みたいな大玉を上げるのは片貝くらいじゃないかな。さすが花火王国片貝である。

昼花火の部
  • 真昼の正三尺玉 マイク:E5200内蔵マイク

真昼の三尺玉も無事観覧できたことだし、800円で売っている花火番付(最近は+200円でポスターも付くようになったのね)の購入と昼食を取りに町に下りる。腹ごしらえのついでにおみやげ屋も覗いてみよう。片貝まつりに合わせた羊羹なんてものが売っていた。ものは試しと木イチゴとイチジクの羊羹を購入してみる。おみやげ屋を後にしてふと空を見てみるとびっくり。だいぶ曇ってきたぞ。黒い雲が北東から流れてくる。風もますます強くなってきた。天気予報は突然の雨を警告していたっけ。これは降るかも知れないぞと思った矢先パラパラと雨が降り始めた。長く降り続くような雨ではなかったが黒い雲の塊は依然として北東から流れてくる。天気予報は夜半から天候が回復するとは言ってたが今日は撮影・録音は無しかな。

片貝町
町にてお買い物。雲行きがだいぶ怪しくなってきた。このあとパラパラと雨に降られる

午後7時半。太鼓の演奏が終わるといよいよ花火が打ち上がる。雨こそ降ってはいないものの空は依然として分厚い雲に覆われている。日中あれほど強かった風は花火が打ち上がる頃にはすっかり収まっていた。だいぶ寒い。寒いうえに雨が降るくらい湿気が多いからだろうか、もやが発生し花火がそのもやを照らすものだからまぶしい。おまけに風が吹かないから煙も掃けない。ちょっと観覧条件は厳しいが雨が降ってないだけでもありがたいと思うべき。録音はせずもっぱら撮影のみに専念することにした。

打ち上げ開始
午後7時半、予定通り打ち上げが開始された

しかし久しぶりの片貝は懐かしい。アナウンスもいつもの調子だし花火の奉納の際に読まれるメッセージにも様々な人生が詰まっている。赤席がはずれの方にあるからかちょっとスピーカーの音が聞こえにくいのは残念だが片貝の花火であることに変わりはない。この名調子のアナウンスは録音意欲をかき立ててくる。午後8時半、番外で特大スターマインがあがるとのことでこれを機に意を決して機材をカバンから出し、録音を開始することにした。天候は回復するという予報を信じることにしよう。

録音を開始してしばらく経った頃、なんと雲の切れ間から星空やお月様が見えてきたではないか。またしても予報は当たったようだ。録音・撮影にも身が入る。

今年の花火はどこも東日本大震災無くしては語ることが出来ない。ここ片貝でも津波に襲われ両親ら家族が今も行方不明という被災地の女児のメッセージが込められた花火が打ち上げられた(番外10日夜9時50分打上)。「早くおうちに帰ってきて下さいね」読み上げられるメッセージが会場の涙を誘う。

夜花火の部
  • 番外 10日夜8時30分打上特大スターマイン
    番外 10日夜8時30分打上
    特大スターマイン
  • 番外 10日夜8時30分打上特大スターマイン
    番外 10日夜8時30分打上
    特大スターマイン
  • 番外 10日夜9時20分打上祝五十歳 大スターマイン
    番外 10日夜9時20分打上
    祝五十歳 大スターマイン
  • 番外 10日夜9時45分打上祝四十二歳厄年満願銀河に轟く特大スターマイン
    番外 10日夜9時45分打上
    祝四十二歳厄年満願
    銀河に轟く特大スターマイン
  • 番外 10日夜9時50分打上
    番外 10日夜9時50分打上
  • ダイジェスト
  • 番外10日夜8時30分打上 特大スターマイン
  • 番外10日夜9時20分打上 祝五十歳 大スターマイン
  • 番外10日夜9時45分打上 祝四十二歳厄年満願 特大スターマイン
  • 番外10日夜9時55分打上 特殊大仕掛 特大スターマイン

午後9時。片貝名物大玉の先駆けとして待ちに待った正三尺玉がいよいよ打ち上げられる。打ち上げ地点は真昼の三尺玉でおおよそ見当は付いている。撮影・録音の準備も万端。サイレンが鳴りやみ、皆の期待を背負い三尺玉が打ち上げられた。圧巻の開発音。打ち上げ大成功だ。目・耳だけでなく体でも感じるのが大玉の醍醐味だが録音や撮影で伝えることはまず不可能。こればかりは現地に行って体験してもらわないといけない。

  • 10日夜9時打ち上げ 正三尺玉

その30分後。矢継ぎ早にさらにもう一つの正三尺玉が上げられる。今度の正三尺玉はどんな玉かな?あ~、残念。直前までに打ち上げられていた花火の煙に遮られて桟敷席からはほとんど見えずじまい。煙の中から垂れてきた冠菊だけが辛うじて視認できた。この二発目は地面に降り注ぐほどの立派な冠菊の正三尺玉だっただけに観客席からも思わずため息が漏れる。そういえば10日は番外が多いとか言ってたかな。番付の中身が詰まっている分打ち上げのテンポも速めざるを得なかったのだろう。折からの無風もあって煙が滞留している中での正三尺玉打ち上げとなってしまった。

  • 10日夜9時30分打ち上げ 正三尺玉

となると気になるのはさらに30分後、午後10時に打ち上げられる四尺玉。10日に打ち上げられる四尺玉は千輪菊の二段咲き。片貝では9日と10日の各日に1発ずつ四尺玉が打ち上げられる。両日で内容は異なり、9日打ち上げの四尺玉は黄金すだれ小割浮き模様、10日打ち上げの四尺玉は千輪二段咲き。ん、そういえば千輪二段咲きの四尺玉を見るのも今年が初めてじゃないか。片貝は4度目の観覧となるのに今年は何かと初めてが多い。気になるのはさっきの正三尺玉のように煙りに邪魔されないかということ。番付が押してるためか四尺玉打ち上げの直前にスターマインを派手に上げちゃってたけど大丈夫だろうか。サイレンが鳴り終わるやいなや正三尺玉が打ち上げられた場所とだいたい同じ所で閃光がひかりちょっと遅れて轟音が到達する。まだ若干の煙が残る上空に向け四尺玉は快調に上がっていき…見事時間差を付けて千輪菊の二段咲きを咲かせた。滞留する煙のど真ん中で開発したのが良かったのだろうか、四方に飛ばされた千輪菊は煙を突き抜けその外側で見事な花々を咲かせていった。

  • 10日夜10時打ち上げ 世界一 四尺玉「昇天銀竜黄金千輪二段咲き」

心配された天候も花火の打ち上げが始まると回復していってくれた。人生の節目節目に花火を上げる片貝まつりは花火のエンターテイメント指向が強まる中で花火の原点を伝えてくれる貴重なまつりではないだろうか。

屋台
花火終了後に町を練り歩く屋台

【追伸】イチジク羊羹おいしかったよヽ(,,゚д゚)ノ