今年の夏は今ひとつ天候に恵まれない。101年目を迎える大曲の花火も当初の予報は雨。100周年記念大会だった去年に行ったことだし今年は雨なら無理していくことはないかな、そう思っていたところ突如として天気予報が好転したのが開催日三日前。開催日を挟んで前後三日が快晴になったではないか。しかも全国的に雨予報のなか秋田の近辺だけが晴れマーク。これはもう行けと言われているようなもの。慌てて荷物をまとめる。
過去2回の観覧は前夜のうちに現地入りして無料観覧席のゲートに並んで夜を明かした。そうでもしないといい場所は取れないからだ。しかし今年は直前になって行くことになったため準備が間に合わなかった。しかも今年は天候の悪さに加え、気温も結構低い。特に夜間の冷え込みは厳しく夜通し河川敷にシートを敷いて寝るのは勇気がいる。というわけで今年は大曲3回目にして初めて当日の朝に現地入りすることにした。事前に得た情報によれば例年なら激しく高騰しているはずのオークションに出品された桟敷席の落札価格が今年は軒並み原価割れするほどの低価格ぶりらしい。東日本大震災の深刻な影響に加え100周年だった去年からの反動もあるのだろう。もしかしたら朝に現地入りしてもいい場所が取れるかもしれない。
朝6時に東京駅を出発する秋田新幹線こまち臨時に乗車する。始発にもかかわらず全席完売。やむなく立ち席で乗車する(盛岡から先は自由席扱いの為座ることが出来た)。東京の空は前日の金曜日に降った激しい豪雨の影響を残す曇り空。新幹線に乗ってもこの曇り空はずっと続く。秋田は本当に今日晴れるのかな、と思ったのもつかの間。盛岡に差し掛かるあたりから雲の切れ間が見え始め、こまちが田沢湖線に分岐した頃には完全に快晴となる。予報は本当だったんだ。
定刻通り午前10時大曲駅到着。間髪入れず会場に向かう。日差しの中にいると暑いけど、ちょっと陰に入ると涼しい風が吹いてくる。秋の運動会の日の朝といった感じ。猛暑(というか酷暑)だった去年に比べたら天国のようだ。
15分後バナナロード入り口に到着。ん?どうも様子がおかしい。入り口付近に人の群れがある。あ、そうか!土手上に設けられた河川敷への入り口は午前11時になるまで開放されないんだっけ。すっかり忘れていた。取りうる選択肢は2つ。バナナロード入り口が開門する午前11時まで待つか、下流側にある一般観覧席ゲート(ここは午前9時に開門している)まで行ってそこから会場入りするか。ちょっと距離があるけど少しでも早く場所を確保するため後者の方法を選択した。
雄物川下流側の無料観覧席入場ゲートより入場。この時間だとさすがに真ん中付近の場所はほぼ全て取り尽くされている。なかなか空いてる場所が見つからないまま上流側に歩いていく。すると案内放送が会場に響きわたる。10時40分より土手のゲートをオープンにするとのこと。なんと今年は11時ではなく10時40分に早まったらしい。去年に比べて人の入りが悪いことも関係しているのかな。うかうかしていると土手入場組との場所取り合戦になってしまうため取れそうなところを取ってしまう。
目の前の桟敷席には「2」の数字が。今立っている場所が上流側(大曲橋寄り)であることを意味している。ま、当日朝現地入りして場所取り出来ただけでも良しとしますか。なんとか空いてる場所を見つけてシートを敷く。敷き終わりと同時に土手のゲートがオープンになった。雪崩を打つように人が入ってきてちらほら見えていた空きスペースが次々と埋まっていく。間一髪だった。とりあえずは一安心。
ちょっと仮眠を、ということで雨傘を日除け代わりにして横になるも暑くて暑くて仕方がない。これじゃとても打ち上げまで体が持たないということで辺りを散策することにした。コンビニで買ったかき氷でリフレッシュし、さてどこへ行きましょうか。そう言えば大曲に来て一度も打ち上げ場裏側に足を運んだことがなかったっけ。いい機会なので早速見てみましょう。
大曲橋を渡り一路会場裏側を目指す。そういえば去年来たときは大曲橋の脇に橋脚が建設されていたっけ。今年はその橋脚の上に遂に橋桁がかけられたようだ。今かけられている大曲橋は確かに年代を感じさせる造りだから将来的にかけかえるのかな?ちなみに新しい橋は現行の橋の上流側隣にかけられるので落成の暁には観覧席がちょこっと増えるかも^^;)
川向かいの打ち上げ場の背後には広大な水田が広がっている。水田の中の一本の道が進入可能な状態だったので早速歩いてみた。時折上がる雷から判断すると打ち上げ場からここまでは600~900mくらいの距離があるだろうか。この道の端っこもガムテープ等で既に場所取りがされている。音楽もアナウンスもここからではよく聞こえないはずだがゆったりと観覧できそうな場所だ。むしろ撮影組の人には都合のいい場所かも。
会場を挟んで大曲橋より下流側にある姫路橋を渡って会場入りする。もうじき昼花火が打ち上がる時間だしそろそろ自分の場所に戻ることにしよう。機材のセッティングも終わる頃になると昼花火の打ち上げが開始された。観覧席からはちょうど逆光になるのでカラースモークといった色物があるとわかりやすい。中には吊り物を仕込んだ花火もある。結構手が込んでる。それはそうとスモークや吊り物が流されていく向きから判断すると風は会場右手方向から左手方向に、さらにやや観覧席側に向いて吹いているようだ。会場左手の大曲橋付近の観客からは煙が自分たちめがけて流れてくるように見えているはず。ちょっと気になる。
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菊屋小幡煙火店
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イケブン
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磯谷煙火店
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三遠煙火
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齋木煙火本店
そしていよいよ夜花火の打ち上げ開始。昼よりさらに風が弱まったせいかオープニング花火も途中から煙に覆われて見えづらくなる。今日はダメかな。でも天候に恵まれただけでもありがたいと思わなければ。そう思っていたところなんと次第に風向きは観客席から見て弱いながらも追い風に。創造花火や企画花火を打ち上げた後の10号玉もクリアに見えるではないか。天候といい風向きといい今日は本当に恵まれている。
さて今年の競技花火だが10号玉はどうも綺麗に決まらないものが多い。大きな欠点が無ければ上位に入ることが出来るレースか。そんななか今年は時差式の花火がひときわ人の目を引いた。部位ごとに光るタイミングをずらしり、一度消えたのち再び光り始める花火のことだ。同心円状の構造をしている割物花火はこの同心円に沿って同種の星を仕込んでいくのが一般的。それに対して時差式の花火は部位ごとに選択的に星を詰め込んでいく。手間暇がかかることは容易に想像できる。今年の大曲の花火はそんな時差式の花火が10号玉の部で2社、創造花火の部でも2社が打ち上げるようになった。確か去年に時差式の花火を打ち上げたのは10号玉の部で1社だけだったと思うから今年は初の競演成立ということになる。今後どう進化していくのか要注目か。参考までに今年の10号割物2発の部で優勝した山内煙火店の2発目の自由玉「Magic Art」はこの時差式の割物花火。
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北日本花火興業
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北日本花火興業
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新潟煙火工業
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野村花火工業
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磯谷煙火店
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太陽堂田村煙火店
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齋木煙火本店
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山崎煙火製造所
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菊屋小幡花火店
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山内煙火店
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篠原煙火店
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小松煙火工業
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紅屋青木煙火店
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マルゴー
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山内煙火店
一方の創造花火の部。今年はしんみり系のものが多いように感じられた。東日本大震災の影響もあるのかもしれない。そんな中ひときわ異彩を放っていたのが磯谷煙火店の「今夜、どこかのBARで ~男と女の物語~」。バーを舞台とする男と女の物語をコミカルに表現した創造花火。要所要所に型物花火を取り入れてわかりやすさを前面に押し出した作品。見事創造花火の部門で優勝。伊那火工堀内煙火店の「ドレミで奏でる七色の空唄」はドレミの音階に合わせて花火を配色した力作。
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磯谷煙火店
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磯谷煙火店
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齋木煙火本店
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伊那火工堀内煙火店
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和火屋
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マルゴー
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菊屋小幡花火店
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信州煙火工業
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筑北火工堀米煙火店
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野村花火工業
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磯谷煙火店
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伊那火工堀内煙火店
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山崎煙火製造所
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和火屋
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イケブン
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紅屋青木煙火店
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菊屋小幡煙火店
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山内煙火店
そして20時45分、定刻通りに大会提供花火が打ち上げられた。地元の煙火店数社が中心となって1年間暖めてきた大曲の花火の顔とでも言うべきワイドスターマインである。観客の多くはこの大会提供が目当てで来ていると言われるほど注目度の高いプログラムでもある。
そうそう101年目を迎えた今年の花火に新たに登場したのが「特別プログラム」。前年に内閣総理大臣賞を受賞した煙火店が打ち上げる音楽付き打ち上げ花火だ。今年その名誉を手にしたのは山崎煙火製造所。「愛と勇気と安らぎを」というタイトルのスターマインを打ち上げる。新たなる百年を歩み出した大曲の花火にふさわしい進化ではないだろうか。いずれ大会提供に並ぶ大曲の花火の目玉プログラムに成長するかも知れない。
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山崎煙火製造所
最後に気になった点を一つ。去年も感じていたがときおりスピーカーからの音が小さくなって聞き取りにくくなることがある。常に聞こえにくいのではなく、普段は十分に聞こえるが時々音が小さくなることがあるようだ。音の位相のズレの問題を考えれば闇雲にスピーカーの数を増やせばいいというわけにはいくまい(増やしすぎると音が山びこ状態になる)。これだけ広い会場をカバーするのは至難の業だろうがもし技術的に解決できそうなら来年以降は改善して頂けると嬉しい。
最後の10号玉30連発もクリアに見ることが出来た。しかし打ち留めとともに風向きが変わって煙が観覧席に。なんと花火が終わるギリギリの時まで風向きが味方していてくれたわけだ。いい天候、心地よい気候にいい風向き。新たな100年を迎えた大曲は絶好のコンディションの下無事終了することが出来た。駅までの混雑も去年に比べれば明らかに少ない。おかげで帰りにおみやげ屋にも寄る余裕ができた。フキを練り込んだという羊羹をおみやげに買う。帰りは去年と同じように奥羽本線の臨時列車で新庄駅まで乗車。ここで3時間ほど始発を待つのだが去年に比べて偉く冷える。猛暑だった去年は半袖で路上に寝転がっていても寒さなんて感じなかったが今年はウィンドブレーカーを着込んでも寒くて寒くて仕方がない。これが本来の気候なのだろう。大曲の花火は東北の夏の終わりを告げる花火大会でもある。