開催2日前の木曜日まで雨が降り続き、週間予報でも土曜当日の天候が芳しくなかったことを考えればまさに奇跡的な晴れである。2010年の夏は花火観覧に際し極めて好天に恵まれた年であったし、その傾向は10月開催の土浦花火大会でも続いているようである。
午前10時、土浦駅到着。そのまま川沿いに会場へと向かう。二日前まで降り続いた雨の影響で桜川の土手はややぬかるんでいるが観覧の大きな妨げになるほどではないし、水はけのいい土手のり面はなおのこと。たった一日半でぬかるんでいた土手を乾かしてくれた立役者を捜して空を見上げる。雲の合間からのぞく強烈な日差しは酷暑だった夏の面影を十二分に残している。この日差しにつられてだろうか、もう10月だというのに河畔の木々でツクツクボウシが鳴いている。とはいえ建物の陰に入ると強い風が容赦なく体温を奪っていく。羽織る物は持参した方がいい。なにせ季節は10月。酷暑の夏も秋に取って代わられつつある。
土浦を観覧するのは2006年以来4年ぶりだろうか。この4年で観覧環境も結構変わった。会場入りしてまず目に飛び込んでくるのが某巨大ショッピングセンターの建物。なんと打ち上げ場所のまっただ中に建っている。以前は畑だった場所だ。かつてはこの建物の裏あたりから10号玉を打ち上げていたんだから当然保安距離の範囲内。安全のため花火当日は営業を停止しているらしい。土浦といえば観覧場所となる桜川の土手の狭さがたびたび話題に上がるがまさか打ち上げ場所まで狭くなるとは思ってもいなかった。
そして打ち上げ場所だけでなく観覧場所の方にも大きな変化があった。2006年は桟敷席の後ろの土手のり面から観覧した。ここは一般に無料開放されていて当日の正午に場所取りが解禁されていた。真正面から創造花火が打ち上がり、やや左手側から10号玉がいい距離で打ち上がる絶好の観覧スポットだったわけだがなんとそれから数年のうちにこの土手のり面まで桟敷席が拡張されてしまったのである。
土浦は観覧場所が狭いことでも有名だがここまで桟敷席に占有されてしまうと無料で見ることが出来る場所は本当に限られる。一つの選択肢は土手背後に広がる田んぼである。この時期は既に稲は刈り取られているため田んぼの中からでも観覧できる。ただしこれにはいくつか問題が。まずは10月とはいえ田んぼは田んぼ。基本的に田んぼの中は泥と思っていただきたい。ましてや二日前まで雨が降り続いていたとなれば田んぼの中はどういう状況か想像に難くない。土手と違って一日二日快晴が続いたところで乾くことは決してない。そしてもう一つの問題点。田んぼからでは会場案内や音楽がほとんど聞こえないこと。スピーカーは桟敷席と土手上にしか無い。背後の田んぼは守備範囲外である。そして最後にして最大の問題点。田んぼはどう考えても人様の土地であるということ。田んぼの持ち主の方は田んぼの中で観覧する行為に比較的寛容という噂も耳にしたことは無いわけではないがあくまで噂は噂。土足で田んぼを踏みにじられてうれしい人なんているわけがない。
もう一つの無料観覧場所は桟敷席がある場所より下流側(土浦駅側)の河畔。打ち上げ場所からはやや離れるが会場放送や音楽も聞ける無料観覧場所といったら今はここしかない。土手の平地の部分でも、土手ののり面でも好きなところから観覧できるのも注目すべきポイント。ただこの無料観覧場所にはひとつとんでもない落ちがある。なんと一般開放されるのは前日の正午なのである。当日の正午ではない。土浦は土曜固定開催だから前日といったら金曜日。金曜日の正午に場所取りするためだけにわざわざ土浦に行ける人がどれだけいるだろうか。現時点における土浦の無料観覧場所は実質的な地元専用席である。
いい場所を確保できる気が全くしないわけだがもしかしたら一人分のスペースくらいならあるかもしれない。そんな淡い期待を胸に土浦に降り立ったわけである。開店準備中の屋台がずらりと並ぶ土手上の道を進んでいくと対岸に鎮座する巨大建造物が視界に入ってきた。某ショッピングセンターの建物だ。ということは無料観覧場所はこの付近にあるわけか。眼下の土手を覗いてみると・・・予想通り辺り一面シートが敷き詰められている。24時間近く前に場所取りが解禁されてるんだから目の前に広がるのは当たり前の光景か。が、なんと桟敷席近くの無料観覧場所の土手のり面にかろうじて一人分くらいのスペースを見つけた。狭いながら丸一日近く放置され続けた奇跡の優良区画だ。早速シートを敷き場所を確保。こういうこともあるんだね。
打ち上げまで時間もあることだしちょっと周囲を散歩してみよう。まずは2006年に観覧した土手のり面でも見てみよう。当時そこはまだ無料観覧場所だったが数年後に桟敷席へと編入されてしまったわけだ。さて、その場所はというと・・・あらら、土手上の道路と同じ高さの桟敷席が設置されてるじゃありませんか。だから土手上の道路から新たに設置された桟敷席へは段差無しのバリアフリーで入ることができる。ちなみに桟敷席と土手上の道路の間にはご丁寧にも背の高いベニヤの板がびっしり立っているので土手上の道路からの花火の観覧は不可能。
次に土手の裏側に広がる田んぼの様子を見てみる。稲はすっかり刈り取られている・・・が、二日前まで降り続いた雨は遠目で見てもわかるほどしっかり残っている。田んぼというより水田と言った方が的確か。今年は田んぼの中からの観覧はまず不可能だろう。
続いて橋を渡って打ち上げ場の方を見てみる。たしかショッピングセンターの建物があるあたりから毎年花火を上げていたと思うんだけど・・・、あ、見つけた。建物のすぐ脇の広場に筒が所狭しと並べられている。なるほど、これだけ近くで打ち上げたら当日の営業なんて出来るわけないよね。
会場周辺をざっと見て回ったがそれなりに花火に肉薄しなおかつ会場放送が聞こえる場所といったらやはり桟敷席脇の無料観覧場所くらいしか無いことがわかった。苦労せず土浦の花火を満足に見ようとしたら現状は桟敷席を買うしか無い。もっと下流側に桟敷席を増設し、土手のり面は昔のように全て一般開放するというのはどうだろうか。いや、お金を出したにも関わらず下流側の桟敷席を割り当てられた人たちは不満だろうな。それでは土手背後に広がる田んぼの持ち主の方と交渉してここに巨大桟敷席とスピーカーを・・・、いや、仕掛け花火の見えない桟敷席など桟敷席と呼べるだろうか。要は花火大会の規模に対して観覧場所の規模が不釣り合いなほど小さいのだ。この場所で花火を開催する限り容易に解決できる問題ではなさそうだ。
そうそう土手のり面で土浦の花火を観覧したことがある人はわかるだろうがこの土手の傾斜は結構きつい。普通にシートを敷いて座っているだけではずり落ちてしまう。そこで地元の人は家からスコップを持参して土手を階段状に掘ったりするわけだが遠方から来た我々のような人間がスコップを持参するのは厳しい。そこで今年は100円ショップに売っていた滑り止め防止シートをシートとお尻の間に挟むことにしてみた。これなら観覧中にずり落ちることを防げるはずである。