去年観覧した山下ふ頭、それがなんと今年は先端部分に有料観覧席が設けられるらしい。一般に開放された場所も現存するとのことだったが面積が小さくなる分場所取りは厳しくなるかもしれない。というわけで今年は午前中から場所取りに出かけ、可能であれば山下公園の真ん中当たりに、それが無理なら去年のように山下ふ頭から観覧することに決めた。
そして花火大会当日。山下公園は午前10時以前の場所取りは禁止だから午前9時半ごろに現地に行けば十分だろう。と、高を括って現地に到着してみてびっくり、山下公園の中央付近はあらかた場所取りされたあとだった。大会運営要綱には午前10時までの場所取りは禁止とはっきり書かれていたのだがそれは無人のまま放置すること禁止しているのであって、人が常駐していれば10時前に場所取りしても撤去されることは無いようだ。
せっかく朝早くから場所取りに来たのだから今年こそメイン会場の山下公園を押さえておきたい。どこか一人くらい収まるスペースは無いかと探していたら有るではないか、「赤い靴はいてた女の子」像のすぐ脇の芝生に一人くらいなら十分収容できるスペースを見つけた。芝生の部分は上手い具合に盛り上がっていてここに三脚を設置すれば人間の頭一つ分くらい高い位置から撮影することが出来る。目の前の道路の向こうは海だから打ち上げ台船も直に臨むことができそうだ。それに山下公園内とあってスピーカーもそこかしこにあるから去年の山下ふ頭のようにプログラムの進行が把握しづらいということも無いだろう。というわけで今日はこの場所から観覧することにした。

10時はもう過ぎたが一応撤去されないよう念のためしばらくその場所に居続けることにした。梅雨明け前の曇りの日だというのに気温と湿度は異様に高く、座っているだけで汗がしたたり落ちてくる。湿度が高いからか打ち上げ台船の奥にあるはずのふ頭が全く見えない。それどころか打ち上げ台船すら霞んで見えるほどだ。本番中に雨が降らなければいいんだがと思っていた矢先、顔にポツリポツリ冷たい物が当たり始めた。雨だ。ちょうど11時を回った頃だろうか。やはり梅雨の天気だ。だが本降りではないこの雨は暑さを和らげてくれる分かえって心地の良いものだった。詰め込んだ機材が濡れないようバッグに傘をかぶせるとしばしのあいだこの天然クーラーを堪能することにした。

時間は正午を回った頃。さすがにもう確保した場所から離れても撤去されないだろう。昼飯を食べる前に一つ確認しておきたいことがあった。去年観覧した山下ふ頭の見学である。今年から山下ふ頭に有料観覧席が設けられたと聞きどんな状況になっているのか是非確認しておきたかったわけだ。早速山下ふ頭に足を踏み入れてみてびっくり、去年は午後4時を回っても一人分くらいのスペースなら随所に点在していたものだが今年は隙間が見えないくらいびっしりシートで埋まっている。もう少しふ頭の先に足を進めてみると・・・。

あった。これが噂の有料観覧席か。立ち入りが制限された区画にパイプ椅子が並べられている。山下ふ頭の自由観覧場所が混雑しているのもこの影響かもしれない。
昼食を取り終え戻ってくるとちょうど今日のプログラムが配布されているところだった。早速一部もらってきて目を通しておく。去年も観覧したので玉名を見ればおおよそどんな玉かは見当が付く。強めのNDフィルタを当てなければならない明るそうな玉はどれとどれか、シャッタースピードを抑えなければならない型物花火はどれとどれか、いったん花火大会が始まってしまうと玉名を見ながら悠長に判断していく余裕はないので事前に注意すべき点などをプログラムの該当する箇所に書き込んでおく。玉名まで詳細に書かれたプログラムが事前に入手できるのは撮影する上で本当に助かる。
ちなみに今回から撮影に関して三つほど新しい試みを導入してみた。一つはシャッターを切ったときに発生しやすいブレを防止するための技術である。長時間露光が当たり前の花火写真では三脚は必須アイテムと言えるが、たとえカメラを三脚に固定していたとしてもシャッターボタンを押したときの力加減でカメラ本体が揺れてしまうことはよくある。特に足場の悪い場所に三脚を置いた場合は顕著だ。このカメラ本体の揺れは無惨にもそのまま花火の光跡のブレとして写真に記録されてしまう。そこで本格的に花火写真を撮影している人の多くはブレを防止するためレリーズと呼ばれる器具を使っている。このレリーズとはカメラのシャッターボタンに取り付けるケーブルのことで、レリーズを介すことでカメラに直接触れることなくシャッターボタンを押すことができるようになる。ただ残念ながらこのレリーズを装着できるよう設計されたカメラは一部のコンパクトデジカメを除いてほぼ一眼レフカメラのみとなっている。もちろん私が所有するNIKONのCoolpix5200もレリーズが装着できるようには設計されていない。そこでなんとかこのカメラにもレリーズを装着できるようにならないものかと思案した結果、何枚かの金属プレートを組み合わせてカメラの筐体に両面テープで固定し、その金属プレートにレリーズを固定する方法に至った。レリーズのボタンを押すと金属プレートに固定したもう片方の端から金属棒が出てきてそれがそのままカメラのシャッターボタンを押す仕組みである。なんとかものにすることは出来たが本番で果たしてうまく動作するだろうか?
もう一つはデジカメ本体を冷却するためのペルチェクーラー。所詮コンパクトデジカメはこんなものなんだろうか?4秒間シャッターを開いているだけではっきりと分かるくらいのノイズが乗ってしまう。特に暑い夏場はひどい。webに掲載するときは写真を縮小しているからあまりノイズも目立たないがオリジナルの写真を見るとはっきりノイズが見えてしまう。せっかくの思い出もノイズまみれの写真を見るとげんなりだ。でも壊れているわけでもないのにわざわざカメラを買い換えるのももったいない。さてどうしたものか・・・。もしこのノイズが暑さから来る物であるのならば、うまくカメラを冷やしてやればノイズも治まるんじゃない?というわけで物は試しとペルチェクーラーで撮影中のカメラを冷却してみることにしたわけである。ちなみにペルチェとは電子クーラーのことで特定の配列に並べた半導体に電流を流すと一方の面(冷却面)から反対側の面(放熱面)に熱を移動させることが出来る。放熱面から放出される熱をヒートシンクやファンで上手く吸い取ってあげれば冷却面から持続的に熱を奪い続けることができる。ペルチェの冷却面をカメラの筐体に貼り付けてあげればカメラを冷却できるはずだ。ただカメラにペルチェ・ヒートシンク・ファンを固定し、さらにそれらを駆動するための電源も必要となる。装置は大がかりになるがそれに見合った効果が得られるだろうか?
そして最後に色温度変換フィルタ。長らくNIKONのCoolpix5200で花火写真を撮影し続けてきたがその写真を見ていてあることに気が付いた。記憶の中にある花火の色と写真の中の花火の色がどこか一致しないのである。銀冠菊の割には写真の中の色はやけに肌色っぽい。鮮やかな青が特徴的な芯入菊だったのに写真の中の青はやけにくすんでいる。原因はCoolpix5200の打ち上げ花火モードのホワイトバランス(色温度)がだいぶ高温側(暖色系)に設定されていることにあるようだ。そのせいで綺麗な白や鮮やかな青が出なかったわけだ。カメラ本体に色温度のマニュアル設定機能があればこれを使うのが一番理想的だろう。だがあいにくCoolpix5200の打ち上げ花火モードでは色温度をマニュアル設定できない。撮影後にソフトウェアを利用して色温度を変更することも可能だが毎回撮影後に補正するのは結構面倒だしソフトウェア的な補正によって画質が少なからず劣化してしまう(jpegを編集してjpegに保存し直せば画質は劣化する)点はいただけない。そこで代わりに市販の色温度変換フィルタをカメラのレンズ前面に装着することでハードウェア的な色温度補正をかけることにした。これなら撮影後にソフトウェア的な色温度補正をかける必要はないから画質も劣化しない。ちなみに使用したのはケンコーのMC C4という色温度変換フィルタ。赤みを抑えるフィルタだ。実はこの色温度変換フィルタは去年のえびす講煙火大会でND4と組み合わせて試験的に導入していた。その結果に満足したため今回もう一枚同じMC C4フィルタをヤフオクでゲット、ND8にも組み合わせられるようにした。これでND4、ND8いずれを使っても色温度を補正した写真を撮影できるようになった。
夕方になると午前中のどんよりとした天気が嘘のように日差しが差してきた。ちょっと当たっているだけで日焼けするくらい日差しは強い。午前中は台船すら霞んでいたのに今は対岸のふ頭まではっきり見える。風向きも適度な強さの南風でこちらに煙が来る心配はない。雨が降らないか心配だった天候は一転して好環境へと変わった。

日曜とあって人の数も凄い。メイン会場の山下公園は花火開始前に入場禁止となってしまった。閉鎖されてから山下公園を出ると二度と入場できなくなるので用事がある場合は早めにすませておいた方がいいかもしれない。ちなみに面白いことに山下公園の入場規制の開始時刻は同公園内に設置されたゴミ箱に捨てられたゴミの量で判断しているらしい。そのため何時から入場規制するかその時ごとのゴミの量次第で決まっていない。よって午後5時を過ぎたらあまり出入りしないほうが良さそうだ。といっても既に公園内はトイレにいくのもままならないくらい混雑しているのだが・・・。

午後7時半、ワイドスターマイン「サマーナイトシンフォニー」を皮切りに打ち上げが開始された。予想通りここは打ち上げ場所を直に臨めるいいポジションかもしれない。
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尺玉
昇朴付 さくらんぼ千輪 -
尺玉
昇朴付 蝶々千輪 -
スターマイン
パープルファンタジー -
特別出品・長野県 篠原茂男 作
尺玉
昇曲導付 変芯菊先紅銀乱 -
特別出品・長野県 篠原茂男 作
尺玉
昇曲導付 芯入菊先青光露 -
特別出品・長野県 篠原茂男 作
尺玉
昇曲導付 芯入菊先黄光露 -
特別出品・長野県 篠原茂男 作
尺玉
昇曲導付 八重芯菊先ピンク銀乱 -
特別出品・長野県 篠原茂男 作
尺玉
昇曲導付 三重芯菊先光露
第50回記念として例年より(公称)1000発増量した去年に比べると多少ボリュームが落ちた感は否めない。しかし打ち上げられた玉のセンスは秀逸で、どのシーンを撮影しても絵になるのは普通の花火大会ではあまり考えられないことだ。また今年から千輪づくしのプログラムが登場したり、競技大会以外では滅多に見ることが出来ない三重芯割物(昇曲導付 三重芯菊先光露、ポートヨコハマジャンボファンタジー)まで上げられた(一方で定番の花傘連星が消えたか?)。自分の撮影スキルが上がったのかと錯覚してしまいがちだがこれは間違いなく打ち上げられる玉がいいものであるからに他ならない。
さて、ペルチェやレリーズ、色温度変換フィルタの効果はどうだろうか?まずペルチェから。去年の国際花火大会と比較すると若干ではあるけれどノイズの量は減っているようだ。もちろん気象条件が一致しているわけではないので厳密な比較は無理だが多少なりと効果はあるようだ。まだフルスペックでペルチェを駆動しているわけではないので今後徐々に冷却能力を上げていきノイズの量がどうなっていくか調べていきたい。次にレリーズに関して。今回撮影した写真に関してはシャッターを切ったときに派手にぶれた写真はとくに見あたらなかったので効果はあるようだ。ただニコニコ笑顔といった型物の一部にシャッターを切ったときに発生したと思われる小さなブレが確認された。レリーズを付けたからと言って完全にブレを排除できるわけではないようだ。シャッターを押しても撮影し終えるまで戻さずにホールドしておくか、黒幕などでレンズを覆いながらシャッターを切るなり工夫をしてブレが写らないようにする必要があるのかもしれない。最後に色温度変換フィルタに関して。効果ははっきりと表れた。特に青、白、ピンクの色がより鮮やかに記録できるようになり、見た目により近い状態で写真を保存できるようになったのではないだろうか。その一例として去年と今年のスターマイン「バラの競演」を見比べて頂きたい。どちらも同じ銀冠菊だが今年の写真の方がより見た目に近い白さを実現できてた(かな?)。Coolpix5200で花火を撮影していくうえで色温度変換フィルタは必須アイテムの一つになりそうだ。
一方録音に関して。念願だった山下公園での収録を実現することが出来た。人数が多い分独特の熱気や喧噪もあり音録りには大変魅力的な環境だ。今回も前回に引き続きJLI-60A(マイク)とPMD670(レコーダー)を用いた。多少なりとその場の雰囲気を感じ取って頂けるのでは無いだろうか。
自分なりに聞いてみた感想だが、去年山下ふ頭で録音したときはDPA4062で録音に挑んだがそのときと比べてみると今回はどうもハイが欠け気味で音が籠もっているような印象も受ける。収録場所が違うので単純に比較できるわけではないが多少気にかかる。今回は山下公園が混雑していた関係でこぢんまりとしか場所取りできなかった。それゆえマイクもコンパクトに縮めた三脚に乗せただけだし人垣の中に埋没していたことも事実だ。単純に環境のせいなのかマイクそのものの性能の違いなのかは今後じっくり検証していく必要がありそうだ。
振り返れば午前中こそ雨がぱらつきもやも出ていたが、花火が打ち上がる頃には青空ものぞきもやも取れ煙を吹き飛ばす適度な風まで吹いてくれた。撮影に関して新しい試みを導入してみた今年最初の花火観覧は最高の環境で迎えることができた。
