さてこの那珂川花火大会、打ち上げ総数は500発(公称)と規模は決して大きくない。極寒とまでは言わないものの雨が降ればかなりの確率で雪になるくらいの寒さの中観客の数もそう多くはない(事実2度の延期はいずれも雪のため)。なのになぜかマニアの間ではかなり知られた花火大会なのである。それもそのはずで打ち上げを担当する煙火店は土浦全国花火競技大会で内閣総理大臣賞を3年連続で受賞した野村花火工業(株)なのである。打ち上がる玉は全て野村花火が自社で手がけた玉、どれも芸術品と言ってもいいくらいの出来らしい。だからかここ水戸の那珂川花火大会では観客よりもマニアの三脚の数の方が多いのでは思えるくらい不思議な現象が見られる。
主催者側もそれを十分熟知してのことか野村花火の煙火師野村陽一さんを大会本部に招き記念撮影会や握手会も開いている。開始直前には水戸市長までも応援に駆けつけた。この規模の花火大会で市長が訪れるのもあまり聞いたことがない。それだけ土浦3連覇を成し遂げた野村花火が水戸の誇りなのである。このように地元の優れた芸術を全体でバックアップしていこうという姿勢には感心させられるばかりである。文化というのはそれを育む土壌があってこそ形成されるのかもしれない。
もう一つ、本大会で特筆すべき点は野村陽一さん自らマイクを手に取り一発一発玉の解説を行うことである。煙火師自ら制作した玉を自身で解説する花火大会はそう見当たらない。見る方としても実直な感想を聞けるだけに勉強になる。
さて現地入りしたのは午後4時半をまわった頃だった。千歳橋のたもとにあるバス停「千歳二丁目」を下車してみたがあたりは河原だけでなにも見当たらない。大会情報には千歳橋下流ということが明記されていたのでとりあえず土手の道路を下流に向かって歩いてみる。途中三脚がいくつか立っている。間違いなくここで花火が打ち上がる証だ。しばらく歩いていくとやがて駐車場らしきものが目に入った。その隣に数は少ないがテントや屋台が散見される。どうやらここが大会本部のようだ。
さて打ち上げ開始は午後5時半、あまり時間は無い。早く場所を決めなければ。那珂川花火大会は煙火師野村陽一さん自ら玉の解説を行うところが特徴的だ。この声をマイクで拾わない手はない。拡声器はテント脇にとめられたライトバンの屋根に搭載された4つの拡声器から発せられるようだ。4つの拡声器は全ての方角に向いているため拡声器から距離が離れさえしなければ問題ない・・・と思いきやなぜか土手側に向いている拡声器からは十分な音量が発せられていないようだ。土手が拡声器より高い位置にあるのも問題なのかもしれない。初めは数多くの三脚に混じって土手から録音・撮影を行おうかと思ったがこれは考え物だ。そうなると残る場所は大会本部テントの前か、あるいは駐車場より前に出て川岸付近のスペースのどちらかだ。そこで拡声器との距離を考えると答えは自ずと大会本部テント前と決まった。
場所決めにかなり時間がかかってしまった。気が付けば5時20分、大会開始10分前だ。ここで幸運にも本部より開始を10分遅らせるとのアナウンスが入る。開催日が順延された結果日の入りが遅くなってしまったためそれにあわせて開始も遅らせるとのこと。この間にセッティングを進める。
18時44分、待ちに待った花火の打ち上げ開始だ。いきなり一発目から去年の大曲で優勝、土浦で準優勝した10号玉が打ち上げられた。玉名は『昇り曲導付四重芯変化菊』。のっけから優勝玉ということで見る方も気合いが入る。デジカメを構えシャッターチャンスをのがさんとするも予想以上の高度で開発しファインダーの外へ・・・。なんてことだ。芯がくっきり出た見事な四重芯だっただけに悔やまれる。ただだいたいの距離と感覚は分かった。10号玉が35mmフィルム換算で38mmレンズにギリギリ収まるということは打ち上げ地点との距離はおよそ250〜300mということだ。10号玉の割に開発音のインパクトがさほど無いのはやや距離が離れていることに加え風が左から右に吹いて音が流されているためか。いずれにせよ煙の滞留に悩まされる心配はなさそうだ。一つ気になる点をあげるとすればちょうど月が花火と重なる位置にあることか。
そうこうしているうちに二発目の10号玉のアナウンスが入る。なんと次は前人未踏の五重芯が上がるという。五重芯と言えば人間が作り出すことができる芯入割物花火の中で最高峰に位置する玉でおいそれと打ち上げられるものではない。仮に5つの芯を詰め込めたとしても一般の人の目に五重芯と認知させる玉を作ることは極めて困難らしい。もちろん自分の目で五重芯を見るのは今回が初めて。さてどんな五重芯が打ち上がるのか。野村陽一さんのトークも交えてお楽しみ頂きたい。
No1 10号玉 昇り曲導付五重芯変化菊 |
No1 10号玉2発 四重芯〜五重芯 (StereoAB録音, 2min38s) WM-61A改 + PMD670 | (9MB) | |
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(2.4MB) |
至極の五重芯、非の打ち所がないとはまさにこのことをいうのではないだろうか。各層がはっきりと識別できなおかつ全体の形がまったく崩れていない。作り手をして「間違いなく優勝です」と言わしめるほどの五重芯だった。単純に5つ芯が入っているだけでは一般の人にそれを五重芯と認知させることは難しい。各層の配色やタイミングなど計算し尽くされた上で今回の結果があるのではないか。ただ残念なことに写真にはうまく収めることが出来なかった。う〜ん、残念。
五重芯の興奮もさめやらぬまま花火大会はなおも進行していく。プログラム4番目のスターマインでは昨年の大曲の花火大会で優勝した『コスモスの花』が披露されたりと密度の濃い花火大会が続いていく。プログラム7番目のスターマインでは音も楽しめる花火『霞草』が打ち上げられた。
No4 スターマイン コスモスの花 |
No6 10号玉 三重芯引先紅光露 |
No7 スターマイン 咲き乱れる霞草 |
No8 8号玉 八方咲 |
No7 スターマイン 咲き乱れる霞草 (StereoAB録音, 1min40s) WM-61A改 + PMD670 | (5.5MB) | |
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(1.5MB) |
続く創造花火ではスマイルやネコといった定番のものから水戸にちなんだオリジナルのものまで披露された。中でも『偕楽園風趣絶景』は印象に残る花火で、偕楽園の緑を群光という点滅する星で、ウグイスを緑色のパイプ星で、そして梅は千輪菊で表現したものだった。千輪菊は梅花のイメージを模してややオレンジ色にシフトした赤を用い、さらに各小花に芯を入れるというこだわりぶりだ。
No12 10号玉 引先紫光露小割浮模様 |
No13 創造花火 スマイル |
No13 創造花火 水戸八景 梅花水戸の魁 |
No13 創造花火 水戸八景 偕楽園風趣絶景 |
No16 スターマイン 水戸八景 那珂川光の花束 中間色-エメラルド |
No16 スターマイン 水戸八景 那珂川光の花束 中間色-イエロー |
No16 スターマイン 水戸八景 那珂川光の花束 中間色-マゼンタ |
No16 スターマイン 水戸八景 那珂川光の花束 混色 |
No16 スターマイン 水戸八景 光の花束 (StereoAB録音, 2min13s) WM-61A改 + PMD670 | (7.2MB) | |
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(2MB) |
21番の『八重芯黄金点滅』では外側に光り輝く黄金をイメージした星を配置した。点滅星を用いたことで錦と比べてより光り輝く黄金のイメージに近づいている。なお黄金点滅を芯に用いたものが17番『黄金点滅芯引先緑』になる。そして一瞬観客を「あれ?」と思わせるのが23番の『千輪』だ。割物とポカ物の中間(半割物)に位置づけられる千輪は一度目の開発では小花を散らせるだけで開花せず、ワンテンポ遅れた二度目の開発で小花が一斉に咲き乱れる。観客は一度目で拍子抜けさせられるだけに二度目の開発で小花が開花すると一際大きな歓声を上げる。
No17 8号玉 黄金点滅芯引先緑 |
No19 スターマイン 水戸八景 千波湖風流枝垂れ柳 |
No21 10号玉 八重芯黄金点滅 |
No23 10号玉 千輪 |
No23 10号玉 千輪 (StereoAB録音, 33s) WM-61A改 + PMD670 | (1.8MB) | |
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楽しい時間はあっという間に過ぎてゆくもので、早くも最後を飾るワイドスターマイン『新春那珂川に降り注ぐ光のシャワー』の打ち上げだ。3カ所から同時に打ち上げで『那珂川光の花束』や『水戸八景 偕楽園風趣絶景』などで用いられた玉が惜しげもなく投入されていく。そして最後は5号8号10号と5カ所からの段打ちで締められた。
No27 ワイドスターマイン 花束一斉打 |
No27 ワイドスターマイン 千輪一斉打 |
No27 ワイドスターマイン 段打 |
No27 ワイドスターマイン 新春那珂川に降り注ぐ光のシャワー (StereoAB録音, 5min8sec) WM-61A改 + PMD670 | (18.3MB) | |
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(4.7MB) |
二度の延期を経ての開催となったがふたを開けてみれば風向き良好、きりりと引き締まった寒さ、雲一つ無い好天候と最も恵まれた条件の中での打ち上げとなった。そして何よりその天候にふさわしい名花の数々。多くの観客を魅了したに違いない。そしてこの那珂川花火大会は今年の大晦日に再度開かれる。2005年は那珂川に始まり那珂川に終わる、そういう幸せな人もいることだろう。