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八景島シーパラダイス 第7回 Sky Concert
世界の花火グランプリ

オーストラリアの花火 『ロミオとジュリエット』


日時2004年10月16日 18:30-19:10
天候曇り時々晴れ
場所神奈川県横浜市金沢区八景島
mapion
最寄り駅シーサイドライン・八景島駅 徒歩5分
主催横浜・八景島シーパラダイス
煙火店エクスプルーシブエンターテインメント
インターナショナル社
パンフレット

一風変わった花火が横浜の八景島シーパラダイスで開催されるとの情報を入手した。なんでも毎週末ごとに違う国の花火を見ることができるらしい。毎回3、4カ国の花火アーティストを招待しコンペティションを開催。この日のためにデザインした創作花火を最先端のコンピュータ技術により音楽とシンクロさせ、華麗でエキサイティングな花火でその「美」と「技」を競い合い、その中から優勝国・最優秀作品賞(グランドプライズ)を選出するらしい。第1回はアメリカ、第2回は日本、第3回はイタリア、第4回はスペインが優勝。第5回は過去の優勝国が参加しその中で見事日本が優勝を勝ち取った。その後の第6回ではドイツ、そして2年ぶりに開催される第7回ではスペイン、オーストラリア、ポルトガルが優勝をかけて競演する。グランドフィナーレは日本が飾るが今回はエキシビジョン参加なので優勝の行方には関係ない。肝心の審査はというと一般公募で募集した市民がこれにあたるらしい。いささか公平性の観点で合点のいかない感もあるがSky Concert最大の魅力は日本にいながらにして世界の花火を堪能できるところにあるのではないだろうか。ここはひとつ勝負の行方は審査員の方々に任せて我々一般客は世界の花火を大いに楽しもうではないか。

さてそんな第7回Sky Concertであるがいきなり冒頭から一波乱起きてしまった。先陣を切って上演することになっていたスペインの花火がなんと台風の影響で中止に追い込まれてしまったのだ。ちょうど上演される予定だった10月9日土曜日に台風22号が関東を直撃、特に金沢八景周辺は海風が強くトラックが何台も横転するなど台風は猛威をふるっていた。Sky Concertは当日が強風の場合次の日に順延されるはずだったが無情にも台風は設置してあった機材に回復不能な爪痕を残して去っていったのであった。というわけでスペインはまさかの棄権。残るはオーストラリアとポルトガルだけになってしまった。これで競技といえるかどうかは微妙なところだがせっかくの機会だから足を運ぶことにしよう。

ちなみにこのSky Concert、観覧するには毎回入場料を払う必要がある。各回一律で前売り券は2000円、当日券は2500円だ。高いかどうかは別として料金を払って観覧しないと音楽がよく聴こえる場所に入ることはできない。Sky Concertの醍醐味は花火と音楽のシンクロにあることを考えると音楽無しの観覧は魅力半減といったところだろう。

さて、スペインの棄権で実質的に初回となる10月16日(土)はオーストラリアの花火だが、打ち上げを担当するのはエクスプルーシブ エンターテインメント インターナショナル社。花火にとどまらず様々な大規模イベントを手がけている会社のようだ。 その実績は、「2000年シドニーオリンピック開・閉会式」「香港返還式典」などワールドワイドに及んでいる。そして今回の上演では、「史上最も有名な困難に耐えるラブストーリーとして知られているロミオとジュリエットを花火と音楽で表現する」とのこと。"ロミオとジュリエット”という具体的な演劇を、花火というややもすると抽象的になりがちな手段でどう表現できるかに最大のポイントがあるだろう。

公演当日は朝から曇り模様。このところ週末は天気に恵まれてない。予報では夕方から晴れると言っていたが何度も裏切られるとすっかり疑心暗鬼になってしまった。「折りたたみ傘は持って行こう。」観覧場所の下見もかねて時間には多少余裕を持って出発した。八景島シーパラダイスの最寄り駅はシーサイドラインの八景島駅。実はこの駅、生まれて初めて観覧して度肝を抜かれた「金沢まつり花火大会」の最寄り駅でもある海の公園柴口駅の隣駅なのだ。両者の打ち上げ場所は目と鼻の先の距離だ。

八景島駅から見た海の公園柴口。金沢まつり花火大会では正面の海に係留された打ち上げ船から花火が打ち上げられ砂浜に集まった観覧客を大いに盛り上げてくれた。

八景島駅を出て橋を渡ってすぐのところに八景島シーパラダイスのエントランスがある。八景島シーパラダイスは24万平方メートルの人工島の上に建設されている。入場料は無料で誰でも広い島内を自由に散策できるようになっている。八景島シーパラダイスは水族館とテーマパークの複合施設のようなもので、園内を歩いているとジェットコースターのようなアトラクションからアシカやペリカンのパレードなどが目に飛び込んでくる。そのためか客層も子供連れからカップルまでと幅広い。Sky Concertも客寄せの一環として開催されているのかもしれない。

八景島シーパラダイスのエントランス 海にせり出すジェットコースター

Sky Concertが開かれるのは島の中でも一番奥の区画だ。早速下見もかねて足を運んでみた。会場に着いてみての第一印象は思ったよりも横に長い。岸壁にそってパイプ椅子をずらりと並べているようだ。確かにこれならば前の人に邪魔されることなく最前列で花火を鑑賞しやすいだろう。席の数も数百席は優にありそうだ(注:前売り券の販売数は2000席)。

会場を後ろから撮影した様子。画面中央よりやや左側にある防波堤が打ち上げ地点のようだ。 同会場を海側から撮影してみた。有料観覧席はさらに画面左側へと続いていく。

なお上の写真を撮影した場所は花火開催時はチケットを持っている人以外立ち入り禁止になる。観覧席奥の建物も基本的に立ち入り禁止だ。一部2階のテラスの部分にもパイプ椅子が設置してあった。そこも有料席なのだろう。なお観客席の後ろの一角に報道陣用の区画も設けられていて花火開始前には何台かの三脚が設置されていた。報道関係者は基本的にその位置から撮影することになるのだろう。さて肝心の席取りだ。花火の観覧に際しては特にどの席も大差ない。花火が開花するのは頭上なので前の席の人も特に邪魔と感じることはなかった。ただ撮影を目的とした人は事前に入念な下調べをした方がいい。平らな場所で席の後ろの方を取ると前の人の頭が邪魔で打ち上げ地点を写真に収めることはできないし三脚を設置するスペースも無い。一部の後方の席で段差の上に設置されているところがある。そこの最前列を押さえれば座りながらにして三脚も展開できる。ただし当然数は少ないのでうかうかしているとすぐに埋まってしまう。もしどうしてもお目当ての席が取れなかった場合、そういうときは会場中央の後方側に三脚を置くしかない。中央部は通路用として席が設置されていない。後方はいくらでも場所が空いているのでそこに三脚を設置すれば打ち上げ地点も含めて写真に収めることができるだろう。ただし間違っても前進して観客ラインの中で撮影しないように。お金を出して席に座っている人達が最優先だ。

次に音を楽しみにしている人へのアドバイス。花火の打ち上げ音や開発音に関してはどの席も大差ない。問題はSky Concertのもう一つの醍醐味-音楽に関してである。音楽と花火が融合して初めてSky Concertが成立することから分かるように音楽は重要な要素だ。音楽は会場周辺に設置された巨大スピーカーから放送されることになる。高さ3〜4mくらいの位置に設置されているから見ればすぐに分かるだろう。音量は十分なのだが、スピーカーとの位置が近いとに逆にそれが仇となる。花火の音よりうるさいのだ。花火に集中したい人はスピーカーと適度な距離をおいた方が賢明だろう。

さて開場は17:00だがその前の16:00から会場への立ち入りは一切禁止になる。この間に腹ごしらえでもすべく周囲を散策してみることにした。なるほど花火が見られるいい場所はほとんどが有料観覧席で押さえられている。お金を払った人が優先的に観覧できる仕組みになっているようだ。有料指定席の外を見渡してみるとちらほらシートを広げている人も見かける。おそらく場所取りだろう。ただ時期は10月だ。海から吹く風も強くそして冷たい。有料観覧席外で場所取りをするつもりならそれなりの防寒対策は必須だろう。もちろん防寒は有料観覧席とて例外ではない。この時期は冷えるから上着は必ず持ってきた方がいい。

有料観覧席ではない場所。すでに場所取りしている人も何組かいる。ただ木立に遮られるため観覧に適す場所はさほど多くはないと思われる。当然音楽も聞こえるか確証はない。 会場から少し遠ざかったところにあるフィールド。ここからも見えないことはないとは思うが花火開催時間も自由に入場できるかは定かではない。当然音楽も流れてこないだろう。

前回の土浦全国花火競技大会では試験的にWM-61A改を導入してみた。その時はレコーダーに入力する段階でWM-61A改からの出力がサチュレーションしていた可能性があった。一般論のためすべてのレコーダーに当てはまるわけではないが、多くのレコーダーはマイク入力から入ってきた信号を内部のアンプでいったん増幅する。これは、オーディオのラインなどに比べてマイクからの出力が大変小さいためだ。そして増幅して得られた信号に対し、入力ソースの音量の大小に応じてボリュームを調整してから録音となる。ユーザーが触れることのできるボリューム調整とはこの段階のものと思ってもらって構わない。

普通の録音の場合はこれで構わない。しかし高感度マイクと爆音ライブなどの組み合わせ次第では前段の増幅の時点でサチュレーション(入力が大きすぎてそのまま増幅してしまうと波形がクリッピングしたり歪んでしまう現象)を生じてしまうこともある。前回の土浦全国花火競技大会(一種の爆音)でのWM-61A改(高感度マイク)による録音はこの嫌いがあった。ボリュームをどんなに絞っても音に歪みが感じられたのである。もしこの歪みが前段の増幅の時点で生じているとすれば納得もいく。後段のボリュームをいくら調節しても前段の増幅回路を出る時点で波形が歪んでいるのだから対処のしようがない。その場合の対策はただ一つ、前段の増幅回路に通す前に入力のレベルを押さえるしかない。

そこで「アッテネータ(ATT)」の出番だ。多くのプロ用レコーダーはアッテネータをマイク入力端子と前段の増幅回路の間に用意している。必要ないときはOFFにしておけば信号はマイク入力端子から前段の増幅回路へとダイレクトにつながる。一方過大な入力が入ってくるおそれのあるときは、あらかじめレコーダーのアッテネータのスイッチをONにしておくことでマイク入力端子から入ってくる信号を抑制してから前段の増幅回路へと渡してくれる。抑制の度合いはレコーダーによってまちまちだ。15dBのものもあれば20dBのものや30dBのものもある。PMD670の場合は20dBのアッテネータを搭載している。ただしアッテネータを使うとS/Nが下がってしまうことに注意されたい。入力信号(S)はアッテネータを入れることで下がってしまうが、レコーダーで発生するノイズ(N)はアッテネータの有無によらず一定の値だからだ。従ってアッテネータは安易に入れるべきではない。使用するマイクの特性、録音の対象などを吟味した上で使用の有無を決定すべきだ。本番が取り返しの聞かない一発勝負であるならば可能な限りテストを繰り返してマイクとレコーダーの特性を頭に叩き込んでから録音に臨むのが望ましい。

前回の土浦全国花火競技大会ではDPA4062とWM-61A改を混在させて録音に臨むという珍しい方法を取った。これは純粋にDPA4062とWM-61A改の音質を聞き比べたいからという理由によるものだがその際に問題が生じた。DPA4062は超低感度マイクのため花火くらいではアッテネータは入れなくても問題ない。一方同時併用したWM-61A改の方は高感度マイクだ。花火の音であれば十分爆音の部類に入る。アッテネータを入れるべきマイクだ。しかしレコーダーのPMD670は残念ながらチャンネルごとにアッテネーターをON-OFFする機能はない。そこで前回はDPA4062に合わせてアッテネータは使用しないまま録音に臨んでしまった。そこで今回はその反省の意も込めてWM-61A改オンリーでの録音に臨むことにする。これならば遠慮せずアッテネータを入れることができる。

WM-61A改オンリーで臨んだ理由はもう一つある。DPA4062が実売で4,5万円台するのに対してWM-61Aは原価数百円で手に入る。そして簡単な改造を施せばWM-61A改へとアップグレードできる。金銭的な理由でDPA4062は2本そろえることはできなかったがWM-61A改ならば2本くらい簡単に用意できる。今回はそんな手頃な値段と改造で入手できるWM-61A改を2つ使って初のバイノーラル録音を試みてみた。

バイノーラル録音とは無指向性マイクを左右の耳の部分に持ってきて録音する手法の事を言う。人が音源を定位するときは単に左右の耳に入ってくる音の位相差や音量差だけではなく、頭や耳の形などによる影響も重要な要素であるらしい。そこで精巧な人間の頭の形をしたモデルを作り耳の部分にマイクを仕込んで録音することで人が聞く音に近い感じでの録音を実現した。それがバイノーラル録音である。もちろんモデルの代わりに実際の人間の頭を使ってもいい。今回は両耳の付近にマイクが来るよう固定し自分の頭を使ってバイノーラル録音に臨んでみた。

遅めの昼食を取り、録音に臨むための最低限のセッティングをすませたら時刻も16:30とそろそろいい頃になっていた。何カ所かある入り口のうちの一つに行ってみるとすでに行列ができている。開場は17:00だっけ。もう少し早めに来るべきだったかもしれない。やがて所定の時刻がやってきて開場。先頭の方に並んでいた人は我先へと走っていく。遅ればせながら私も走っていくもいい席はおおかた取られてしまった。結局悩んだあげく選んだ席は平らな部分に設置された座席の一番後方。当然すぐ前には人が座っているので三脚を設置するスペースはない。ちなみに今回はバイノーラル録音方式を採用した。マイクは自分の耳のところにあるので従来のように三脚を展開してそこに固定する必要はない。今回展開する三脚はデジカメ用の一基だけだ。その三脚はパイプ椅子の上に設置し、自分はその後ろに立って録音と撮影を同時に行うことにした。椅子の上に三脚を置けば前の人の頭に邪魔されることなく撮影も可能だ。後ろは生け垣で席が無いなので人に気兼ねする必要もない。

着席してセッティングもすませてようやく一段落ついた頃、余裕も出てきたので周囲を見渡すと日中どんよりとしていた空にはいつの間にか夕日が差し込んでいた。これなら天候のことは気にせず心おきなく花火を楽しめそうだ。

午後6時半、場内アナウンスが入りいよいよ第7回 Sky Concert オーストラリアの花火の開幕だ。

開幕セレモニー
(バイノーラル, 6min57s)
WM-61A改 + PMD670
FLAC(44.2MB)
MP3(6MB)
スピーカーに近いせいか心持ち音がうるさい。レコーダーの音量は大丈夫だろうか。ちゃんと20dB側にスイッチが入っていることを確認する。Sky Concertに関する簡単な説明に続き今回のオーストラリアの花火「ロミオとジュリエット」の紹介へと入る。会場の特設ブースにて紹介されるオーストラリアチームの花火アーティストは全員スーツでビシッと決めている。紹介も終わりいよいよ点火となる。さて、オーストラリアの花火とはいかなるものか。

第7回 Sky Concert
〜世界の花火グランプリ〜
オーストラリアの花火
『ロミオとジュリエット』
完全収録
(バイノーラル, 25min59s)
WM-61A改 + PMD670
MP3 (23MB)

第7回 Sky Concert
〜世界の花火グランプリ〜
オーストラリアの花火
『ロミオとジュリエット』
ダイジェスト
(バイノーラル, 9min13s)
WM-61A改 + PMD670
FLAC (57.9MB)
MP3 (8.2MB)
まず驚いたのが音。明らかに日本の花火の開発音と比べて小さい。レコーダーのレベルを見ても花火の開発音よりスピーカーから流れてくる音楽の方が大きいくらいだ。レベルオーバーさせないためには花火の開発音にあわせるのではなく会場内のスピーカーから流れてくる音楽に合わせなければならなかった。開発音の違いは火薬量もさることながら花火の構造に大きく起因するのかもしれない。花火が開発するときの勢いは玉皮の強度に関係する。日本の伝統的な割物花火はクラフト紙を玉の周りに幾重にも貼って適度な強度を得る。割物花火の勢いよく開発する仕組みはここにある。一方海外では筒状の入れ物に火薬を詰めて上空で中身がこぼれ落ちるように開花させる方式が主流と聞く。日本でいうポカ物花火に近い。この場合は開発時に大きな音を立てることはない。もっとも最近になって日本式の構造の花火の製作に取りかかる海外メーカーも増えたと聞く。今回オーストラリアの花火でも日本で言う牡丹に近い花火を拝見することが出来た。しかし玉の大きさ、貼りの強度の面ではまだまだ日本の花火とは若干違うのかもしれない。

で、肝心の音楽との融合に関して。テーマは「ロミオとジュリエット」だったっけ。残念ながら私があまり「ロミオとジュリエット」に詳しくないためいまいち正当な評価を下しにくい。確かオリジナルの話は悲劇だったような気がするが・・・今回のオーストラリアの花火で使われた音楽から判断すると悲劇有り、喜劇有り、何でも有りだった。いまいちストーリーの流れを理解することが出来なかった。ただ音楽と花火のシンクロはバッチリだった。コンピューターを利用したコンマ1秒単位の制御に加えて、小さい玉が比較的低い高度で開花する(遅延の軽減)、一発に精魂込める日本の割物花火と違って連射連発を多用するオーストラリア方式の花火の方がリズムに乗りやすいからだろう。

【追記】
来週は「ポルトガルの花火」が開催予定だが残念ながらその日は「須走の大花火」を見たため参加できなかった。後日審査の結果栄えあるグランドプライズはポルトガル代表ルゾイベンツの創作花火「ファイヤーダンス」が勝ち取ったようだ。

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