開催時期も10月と三大大会の中でも最も遅いことからも、打ち上げ業者にとってみれば来年の花火大会に向けて自社の花火をアピールする絶好の機会になる。そしてそんな優れた打ち上げ業者を獲得すべくバイヤーの活動も活発らしい。売る方も買う方も気合いの入り方が違うから打ち上がる花火も質も量も半端じゃないし、そんな花火大会を一目見ようと訪れる観客やそれらの客を目当てに開いている屋台も一瞬真夏の花火大会を軽く凌駕するのではと思わせるほどの数である。
さて肝心の競技は10号玉の部・創造花火の部・スターマインの部の3部門に分かれている(プログラムはこちら)。それぞれの打ち上げ場所は独立していてプログラムの進行も3つの部が交互に繰り返さるスタイルをとっている。10号玉の部は一般に言われている尺玉が打ち上げられる。開いたときの様子がいかに綺麗か、欠けはないか、消えゆくタイミングは一致しているかなどが評価のポイントとなる。割物花火と言われている日本の伝統花火の見せ所だ。一方創造花火の部では一変、打ち上げ業者が自由な発想の元持てる技術の粋を結集させて様々な花火(5号玉)を打ち上げる。鳴門やニコニコマーク、ドラえもんなどの花火がこのカテゴリーに入ると思ってもらって結構である。一般に「形物」と呼ばれている花火だ。最後のスターマインの部は言わずもがな花火の速射連発で構成される。多くの花火大会ではスターマインを締めに使っているのでなじみもあるだろう。近年は音楽とシンクロさせたものが主流になりつつあるようだ。土浦でも音楽を使ってない業者を見つける方が難しい。この背景には技術の進歩で発射の制御が電気点火でできるようになったことがあげられる。打ち上げ地点から離れた場所でスイッチ一つで電気点火できるほうが安全面でも好まれている。中にはPCを使い全自動で点火する業者もいるらしい。あらかじめ音楽にあわせて打ち上げタイミングをプログラムしておくのだ。これならば打ち上げタイミングがずれる恐れも少ない。 ちなみに土浦でのスターマイン、玉数や筒数には制限が設けられ「いまや日本で最高にシビアな競技」とのことだ(「日本の花火」の花火野郎さん談)。そうでなければ玉数や発射スピードの規模といった物量に評価が下ってしまいがちだからである。ここらへんの競技の枠組みがしっかりしていることが土浦の花火大会を名実ともに日本三大花火大会の一つに押しやっている所以だろう。
個人的には三大花火大会に数えられている花火大会への参加は土浦が初めてある。そんな土浦の花火大会を一目見ようと現地入りしたのは午後3時頃。もう少し早くに来るべきだったか。土浦駅西口から花火大会会場への臨時バスがひっきりなしに運行している。急いでいるときはこの臨時バスを利用しよう。運賃は片道180円。ちなみに歩きだと片道約30分ほどかかるが帰りは混雑を考慮するともっとかかると思って間違いない。時間には余裕を見ておこう。
昼間に運行されている臨時バスは学園大橋の手前が終着駅になる。バスを降りると思いもかけず熱気に襲われた。日中の日差しもまだ強い。予期せぬ暑さに負けて10月だというのに思わず近くのコンビニでモナカアイスを購入してしまった。モナカをボリボリ食べながら打ち上げ地点となる桜川の河原に出るべく歩いていると早くも道中の田んぼの中に場所取りをしている人々が・・・
嫌な予感を抱きながら一路河原に向かってみると・・・
桟敷席 | 土浦橋 |
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人、人、人・・・どこもかしこも人の山だ。打ち上げ地点から500mほど下流に土浦橋という橋が架かっているが見事そのたもとの河原まで人で埋め尽くされている。上流の打ち上げ地点付近に戻るにつれ人口密度はさらに上がっていく。まれにぽつりぽつりと不自然に開いた空間がある。近づいてみると人が立って監視している。聞けば大手のツアー客用に確保してある場所らしい。もともとそんなに広い河原ではなかった。そこに人々がめいっぱいひしめき合っている。そしてさらに輪をかけて人が流入してくる。「来るのが遅かったか・・・。」これでは機材を広げる場所の確保は困難と判断。やむを得ず河原からは退却して道中に見かけた田んぼの中から録音に臨むことにした。ちなみに下流方向にあった土浦橋、橋の上での花火見物を禁止するためか欄干の部分がベニヤの板でびっしり目隠しされていた。ベニヤ板がなければ絶好のポジションとなって交通麻痺を引き起こしていただろう。三大大会に数えられるだけあってさすがこういうところは抜かりがない。
なおあらかじめプログラムが大会本部にて無料配布されているので是非それを入手したい。会場でアナウンスはあるもののそこから離れている田んぼではさすがにそれも聞きづらい。あるいは毎年行っているかはわからないがラジオ(茨城放送)による実況中継を聞くという手段もある。簡単な解説かとは思うが会場放送が届かない場所ではそちらを利用するのも一つの手だ
田んぼの中に陣取ると早速三脚を接地し始めた。ついてすぐは早いと思われるかもしれないが、早めに三脚を接地しておくことはあとから後ろの場所に来る人に対する最低限の礼儀だと思っていただきたい。さて機器の動作確認も一通り終わり、ふと振り返ってみるとあぜ道沿いにいくつもプロ用と思われる三脚が並んでいる。混雑を回避してこの田んぼにたどり着いたわけだがどうやらここも撮影ポイントの一つらしい。確かに3カ所の打ち上げ地点からはどこからも均等に約300mほど離れている。迫力はいささか欠けるがカメラにとってはこの地点が花火を綺麗に収めることができるポイントのようだ。正面の土手沿いには屋台がズラッと並んでいるから夜になれば光のイルミネーションとして写真にいいアクセントを与えてくれるだろう。肝心の田んぼだが稲は刈り取られた後と思われる。ただ刈り取った先がとんがっているのでシートを敷くときは注意をしないと破れてしまう。折りたたみ式の小型椅子を持っていくのは賢明な判断だ。ただやはりもとは水田。藁が敷いてあって一見すると乾いているように見えてもその中に一歩足を踏み入れると湿った泥が付いてくる。撮影機材や録音機材を不用意に地面に落としたりすると泥が付着する可能性があるので十分注意する必要がある。特に夜になると街灯がないから辺り一面真っ暗になる。懐中電灯は必須アイテムだがそれでも撮影・録音に際して明るいうちに機材の入念なチェックをしておくことを怠ってはならない。
午後6時。いよいよ打ち上げ開始だ。あたりは完全に真っ暗。日の入りの早さは秋の訪れを実感させる。あれほどあつかった日中の気温も嘘のように急激に下がってきた。もともと地面が湿っている田んぼの上にいるからだろうか、気温が下がって来るに従い急激な湿度の上昇が手のべたつきを通して不愉快なほど感じられる。録音機材に支障が出ないことを祈るのみだ。 しかし花火を見る位置としては申し分ない。適度に離れているから見上げる角度もきつくなく首への負担も少ない。10号玉、創造花火、スターマイン、そのいずれもが何の障害物にも邪魔されることなく見ることができる。広角レンズをつけられないデジカメなどは最低でもこの位置まで下がらないと花火全体を収めることはできないだろう。初めての花火大会でどこから見ていいかわからないときはカメラ用の三脚が乱立しているポイント周辺にすればまず間違いはないというのはあながち嘘ではないかもしれない。
一方本来の目的たる録音に関してだが音の迫力に関してはさすがに近接した場合に及ばない。離れた田んぼに布陣するなら「周囲の建物に反響した音を拾うのが目的」くらいの気構えで録音に臨んだ方がいいだろう。もっとも最大SPLが中〜低のマイクで録音に臨むならこのくらい、場合によってはもっと離れた方が綺麗に録音できるかもしれない。ただ観客の歓声の大きさは打ち上げ地点から離れるに従い反比例する傾向にあるようだ。田んぼも花火が打ち上がる頃になるとそれなりの人口密度になったが観客のボルテージは最後まで低いままだった。観客の歓声までマイクに収めたいときはもっと早くに来て河原で場所取りをするか、あらかじめ桟敷席を購入しておくべきだ。
今回は今までメインで使ってきたDPA4062に加え、パナソニックから発売されているWM-61Aという小型マイク(カプセルタイプ)を初めて録音に投入してみた。このマイクカプセル、値段は1個数百円程度にもかかわらず多少の改造を施すだけで市販の民生用マイクを軽くしのぐ性能を発揮するようになることで有名だ。DPA406xが1個3〜5万円することを考えたら恐ろしいほどコストパフォーマンスはいい。改造に関する詳しい解説は変人音館さんのDIYマイクのページを参考にして頂きたい。ちなみに改造を施すことで得られる効用は、中〜大音量でのひずみの低減だそうだ。花火大会のような大音量を録音する場合は是非ともこの改造を施しておきたい。なおこの改造を施したカプセルは初めに提唱したSiegfried Linkwitz氏の名前を取って"Linkwitz mod"と呼ばれることが多いようだが当サイトでは元となったのがパナソニックのWM-61Aであるということをわかりやすくするために"WM-61A改"、ないしは"パナ改"と呼ぶことにする。下図に今回実際に使ったWM-61A改のマイクを掲載した。ケーブル以外はシールドすらされていないむき出しの状態だがテストで使うには十分だ。ただしこの状態だと近くで携帯電話をつかったり蛍光灯のランプをつけるとそれらのノイズをモロに拾ってしまう。実用に耐えるものにするなら基板部のシールドなり対策が不可欠だ。今後の課題にだろう。
WM-61Aと試作基板 | |
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基板の右側から飛び出ているケーブルの先についているのがパナソニックのWM-61A。基板の左側から出ている長いケーブルの先がレコーダーの入力に接続される。全体的に不格好だが今回はこの状態で録音したものをWM-61A改と呼ぶことにした。シールドされていないこの状態では携帯電話や蛍光灯のノイズを拾ってしまう。 |
それでは早速今回録音した音を聞いてみよう。競技大会ということも考慮して公開するのは上位入賞した花火の音が妥当だろう。ちなみに土浦全国花火競技大会の場合、スターマイン・10号玉・創造花火の部でそれぞれ優勝者が決められ、それら3部門の優勝者の中から総合的に判断して煙火技術の向上に貢献し、見る人に感動を与えたと認められる出品者に対し褒賞として内閣総理大臣賞が授与されることになっている。2004年の上位入賞者一覧は下記の通りである。
等級 | 褒賞区分 | 作品名 | 受賞者名 | 花火の音 RecorderはいずれもPMD670 |
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優勝 | 経済産業大臣賞 | きらめく星の世界へ | 茨城 | 野村花火工業(株) | DPA4062 WM-61A改 (nomo, 2m37s) |
準優勝 | 茨城観光協会長賞 | 天空の花火パレード | 群馬 | (有)菊屋小幡花火店 |
DPA4062 WM-61A改 (nomo, 2m39s) |
特等 | 土浦商工会議所会頭賞 | 銀河大戦 | 茨城 | (株)山崎煙火製造所 |
DPA4062 WM-61A改 (nomo, 2min9s) |
1等 | 土浦市観光協会長賞 | 銀河創世 | 宮城 | (株)芳賀火工 |
DPA4062 WM-61A改 (nomo, 2min39s) |
特別賞 | 中日新聞社社長賞 | きらめく星の世界へ | 茨城 | 野村花火工業(株) |
等級 | 褒賞区分 | 作品名 | 受賞者名 | 花火の音 RecorderはいずれもPMD670 |
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優勝 | 中小企業庁長官賞 | 昇曲導付三重芯錦冠菊点滅群声 | 茨城 | (有)森煙火工場 |
DPA4062 WM-61A改 (nomo, 15s) |
準優勝 | 茨城議会議長賞 | 昇り曲導付四重芯変化菊 | 茨城 | 野村花火工業(株) |
DPA4062 WM-61A改 (nomo, 12s) |
特等 | 土浦市議会議長賞 | 昇曲導三重芯変化菊 | 栃木 | (有)田熊火工品工場 |
DPA4062 WM-61A改 (nomo, 11s) |
1等 | 土浦市観光協会長賞 | 三重芯銀点滅 | 茨城 | (株)山崎煙火製造所 |
DPA4062 WM-61A改 (nomo, 14s) |
特別賞 | 茨城放送社長賞 | 昇曲導付三重芯錦冠菊点滅群声 | 茨城 | (有)森煙火工場 |
それでは今回の録音を反省してみる。今回初投入となったWM-61A改。当初は動けばおもしろい程度の気持ちだったが実際ふたを開けてみると期待以上の働きをしてくれた。特筆すべきは花火を打ち上げている背景で鳴り響く虫の音や人々のざわめき、草木が風に揺れる音など非常に繊細な音まで拾ってくれたことだ。これは今までDPA4062を使って花火の録音をしてきた中である意味感動的な出来事だ。WM-61A改が高感度ローノイズであることの証と言えよう。WM-61A改は花火以外にも小さな音の生録にも十分通用するに違いない。ちなみに実際に現場にいた者として、花火の音をより忠実に再現しているマイクはどちらかと聞かれればDPA4062と答えるだろう。高いSPLを持つDPA4062の実力は別格だ。反面WM-61A改の音はあきらかに歪みが感じられる。この歪みがWM-61A改のスペックから来るものなのか、またはレコーダー側の入力アンプでレベルオーバーを起こしたことに起因すのかはまだわからない。普段DPA4062での録音に慣れているため今回うかつにもレコーダー側でアッテネータを入れるのを忘れてしまったのである(DPA4062はアッテネータすら必要ない)。これに関しては次回の録音で突き詰めていきたいと思っている。